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ガチ漫画初心者が、10作描いてマンガでデビューするための方法(リアル)

14年間漫画家志望者と一緒に短編漫画を作り続けてきた私が本気を見せます。なんて。見てね♡

5作目 32ページ漫画を本気でがっつり描こう②

おはようございます。みなさんはお目覚めのよい月曜日の朝をお迎えでしょうか?私の方は月末に教室の引っ越しを控えているので昨日も一日力仕事でした。しかし、たまにこんな風に体を動かすのもよいななんて考えています。

 

①人間の絵になる所作について

前回、「起承転結」のうちで承が大切だというお話をしました。理由は読者に感情移入をしてもらうためなのですが、今日はその続きで、イントロから中盤にかけて入ってくる「見せゴマ」「見せ絵」「見せシーン」って大事じゃない? というお話をします。

 

人間には不思議ですが絵になる所作というものがあります。代表的なのは「タバコを吸う」所作です。21世紀は嫌煙ブームですのでリアル世界ではタバコはすっかり嫌われていますが、20世紀の映画・アニメ・テレビドラマ・マンガでは、実に多くの主人公がタバコを吸うシーンが描かれています。松田優作の「探偵物語」とか、宮崎駿の「カリオストロの城」とか、もうタバコ三昧ですね。名画「スモーク」というそのものずばりタバコ屋をめぐるオムニバス映画なんてものもありました。

それは、何故だかわからないけれども、タバコを吸うシーンというのがかっこよく見えるからなのです。

このコラムを読んでくださっている方の中で、過去の投稿作で主人公が、あるいはヒロインがタバコをかっこよく吸うシーンを描いた事がある方はいますかね? おそらく、いないんじゃないかと思います。

実は、これがプロと素人の一番の違いじゃないかな、と思うのです。

 

②プロの原稿は「魅せる」シーンが多い。

一番わかりやすい例は宮崎駿だと思うのですが、「カリオストロの城」のイントロ、ルパンとクラリスが出会う場面にあのカーチェースは必要でしょうか? 2人が出会うだけならば、喫茶店でコーヒーをこぼしちゃって、みたいなエピソードでも良いわけです。けれど、駿は全力でカーチェースを描きます。そしてスピルバーグは「映画史上一番素敵なカーチェースカリオストロのイントロのシーンだ」と言います。

宮崎駿は知っているのです。カーチェースが(人間が乗り物を上手に乗りこなすのが)絵になるシーンだということを。そして更に言うならば、それをフルフルで演出することでイントロで読者の感情移入を誘えることを。

私たち漫画家志望者の短編漫画に駿と同じカーチェースを求めるのは酷な気がします。が、私はみなさんにそれぐらいの気構えで原稿に取り組んでほしいのです。

絵になる所作、色々ありますよ。背の高い男がのれんをくぐるところ。回し蹴りが決まるところ、帽子から鳩を出すところ、弓矢を引くところ。

みなさんの原稿にそんな「魅せシーン」ありますか?

プロの漫画家の原稿には、直接ストーリーと関係なくても、そういうかっこよいシーンやセクシーなシーンで読者を魅了する場面が多々あります。納得できない人は、「落語心中」を見てください。男性のセクシーな所作のオンパレードですから。

 

③「この場面いりますかねぇ?」「これなんで風呂屋なの?」という編集の意地悪質問は全ツッパしよう

編集者は、そして私も、駿みたいな勢いのある原稿じゃないと、つい上記のような意地悪質問をしてしまいます。「ねぇ、これヌンチャク持ってるけど必要ないよね? これ鎖がまでも大丈夫だよね?」と。

しかし、例えば宮崎駿の「千と千尋」に対して「これなんで風呂屋が舞台なの?」と聴く人はいない。それは駿が圧倒的なスケールと画力で読者を圧倒し、こちらがそんな疑問を持つ隙がないほど面白いシーンを連発するからです。

なので、編集者に上記の意地悪質問をされたら、「自分の原稿には力がなかった」と思いましょう。しかし、代える必要はありません。「何故なの?」に対しては「それを描きたかったから」でよろしい。実際に、読者がほれぼれするような回し蹴りが描ければ、新人賞ぐらい取れますよ。実際に私の教え子で、ストーリーを一切なくし、ただ女子高生2人が戦い合うだけの話を描いた生徒がいましたが、ヤングアニマルグランドスラム賞を取りました。イントロから中盤にかけて、絵になる所作、絵になる演出が多いからです。

 

④編集者はオール3の原稿を求めていない。どこかで特化した作品を

これは本当に多くの編集者の方が言います。「私たちは5点満点中オール3点の原稿は求めていません」と。新人なのだから多少ストーリーに難があっても、多少キャラクターの感情線が変でも、よいのです。今後鍛えて直そうと思いますから。それよりも、どこでもよいので、5点満点中6点とか7点とか、破格のスケールで良い場面がある。良いシーンがある。そんな原稿を編集者は新人に求めているのです。

例えばボーイズラブティーンズラブだったら、それは「男の子のセクシーさ」でしょう。ストーリーは編集者でも考えられます。しかし、実際の画面で男の子のセクシーさを描くのは漫画家さんです。それが最初から出来ている新人や漫画家志望者は、やはり商品価値があるのです。編集者さんたちは、「お金の匂いがする」という表現も良く使います。将来大化けしそうな予感。これが私たちに求められていることです。

話を基に戻すと、私たちはイントロから中盤にかけてそういう見せゴマ・見せシーンを多用し、具体的な数で言うと作品で5枚は見せゴマを入れ、読者・編集者を魅了すべきです。

 

⑤それが、感情移入に繋がる

そして実は、それが読者の感情移入に繋がるのです。短編漫画の中で中盤が最も大事なことは既に述べました。そして、何故かというと中盤で読者が感情移入をするからだという話も既にしました。では具体的に何で感情移入をさせるかというと、中盤の絵になるシーンです。かっこよい・セクシーなシーンです。私たちは漫画家なので、それはほとんどの場合「絵」で表現されるでしょう。絵の練習、ぜひしてくださいね。それは魅せる絵です。

ちなみに、以下は以前生徒たちにアンケートで集めた「絵になるシーン」です。よかったら全部絵やシーンにしてみてください。

・ 大量の汗をかく(アクション)
・ タオルで汗をふく
・ ゴールした後に膝に手を当てながら、しずくがたてる
・ 二丁拳銃
・ 右手と左手で違うことをする(器用さをみせる)
・ 流血(血が目にはいって見えない、蚊をつぶす)
・ 服がボロボロ
・ パッとハエを捕まえる(おばちゃん、おばあちゃん)
・ さいばしでハエを取る(香港映画とか)
・ 酔拳
・ 鳩を蹴る
・ 美容師(髪の毛切る、頭を洗う)
・ バリカンで刈る
・ ぶっ倒れる(後ろ向き?、笑いながら倒れる、意識はあるけどパワーはつきた)
・ くしゃみ(花粉症の彼。目が真っ赤)
・ 目が潤む
・ マッサージ(される、する)タイ古式マッサージ
・ プロレス技(かける、かけられる)
・ ダンス(ボールルームへようこそSOLA)
・ 女の子が白目
・ ひげをそる
・ 女の人守りながら戦う
・ コンサバ系、スーツの人が頭をかく(だるい感じ)
・ 筋肉痛(筋肉通の部分を攻撃する)→ ( 彼が自分の身を犠牲にして、翌日筋
肉痛、そこをいじめて楽しむ )
・ 二日酔い(弱っているところ)
・ 弱っているところ → ( 笑い泣き、帰宅ラッシュ、満員電車、はみ出ている肉
をつまむ )
・ 花束をあげる(プチブーケ)
・ ペットをなでる
・ 耳かき(やってもらう、やってあげる)
・ 蛇口から水を飲む(ラッパ飲み)
・ メガネを投げ捨てる
・ ワインを片手で注ぐ(スープとフォークで挟んで取り分ける)
・ プールから勢いよくあがる
・ 着物のたすきをあげる(片方を口にくわえて)
・ 血まみれで将棋をうつ
・ 改札を颯爽と通る(改札でいつもひっかかる)
・ 動物を呼び寄せる
・ 数学の問題を解く
・ 靴を飛ばして片足で取りに行く
・ プールで2人に守られている(女の子がガードされている)
・ タオルを頭からかぶって汗をかいている
・ 懐中時計を手にする
・ 電車の中でニヤニヤさせる

⑥まとめ
と言う訳で、今日は朝から熱く語ってしまいましたが、みなさんが5作目を描き終え、6作、7作と描き続けるうえで、今日の話は必ず役に立つはずです。覚えていてくださいね。

 

 

 

5作目 32ページ漫画を本気でがっつり描こう①

こんばんは。雨がざんざん降りますね。外でお仕事な人はさぞ大変なことだと思います。かく言う私も今日は傘を持っておらず雨に濡れて帰宅しました。

 

さて、このコラムも今日から初級編から中級編に入ります。みなさんは今日から中級者です。中級車になると、センスの良い方、元々画力がある方はぼちぼち賞を取り始めます。賞を取るのが全てではありませんが、賞金で食べる焼き肉はさぞ美味しいと思いますよ。

 

①起承転結って知っていますか?

中級者の方に今更聴くのも何なのですが、みなさんは「起承転結」という言葉を知っていますね? 起は物語の起こり、承はそれを承けて物語が展開し、転では物語が転じてクライマックスがやって来て、結でハッピーエンド。という感じです。これは国語の教科書にも載っているので高校生でもわかります。

では、この起承転結、それぞれのパートで私たちがやらなければならないこととは何ですかね?

起はわかりますね? いわゆる5W1H。ここがどこで、主人公とヒロインが誰で、彼らがどういう状況にいて、何故そういう状況にいるかなどを説明するパートです。

転は物語がクライマックスに入って、少年漫画ならば見開きで主人公が敵陣に突っ込む、少女漫画ならば今まで勇気が出なかった主人公が大好きな先輩に勇気を出して告白をする的なパートです。

結は後日談。主人公がかっこよく去って行ってもよし、このドタバタはいつまでも続くという感じでもよし、実は主人公の知らないところで新しい敵が生まれようとしているという感じでもよし、ようは、なんでもよいのです。

上記、起・転・結のパートでやるべきことはわかりますね?

では、承って何をするパートでしょうか? みなさんわかりますか?

 

②承がやることが一番はっきりしていない、けど、一番大事。

私の考えだと、起承転結のうち、一番大事なのが承です。そして、上手な作家と下手な作家の差が一番出るのも承の部分です。

最初に言ってしまうと、承で主にやることは3つ。

1.読者の作品への、主人公への感情移入の度合いを高める。

2.作者の趣味嗜好・美意識・世界観などを読者とシェアすることで読者に作品を好きになってもらう。

3.アイテムやキーワード・セリフなどを使って伏線を張る。

です。

この中で一番大事なのは①の感情移入です。いつも言うのですが、例えばみなさんが原稿を描いていて、転の部分、クライマックスだけを井上雄彦が描いたとしても、読者は「この漫画はクライマックスだけが尋常じゃない画力と演出力の不思議な漫画だ」と感じるでしょう。それは、中盤までで感情移入が完了していないからです。

②の美意識・世界観などもとても大事です。みなさんは経験がありませんか? 「この作者のセンス好きだなぁ」とつくづく思うことが。私はよくあります。それは、ストーリーには直接関係ないけれども実は感情移入と繋がっていて、例えば「天空の城ラピュタ」の地下道でパズーとシータが目玉焼きを食べるシーンなどは何度見ても「よいなぁ」と感じてしまいます。そして、それが読者の作品への態度を前向きにさせます。

 

③みなさんのこれまでの作品は承がちゃんと機能していたでしょうか?

以上のような承の役割を考えた時、みなさんのこれまで描いた原稿は承の部分がきっちり機能していたでしょうか? おそらく、ほとんどの方は機能していないんじゃないかなと思います。実際に、漫画家志望者の方が私に見せてくれる原稿のほとんどは承の部分がザルです。私たちは、イントロで紹介した5W1Hに感情移入をしてもらうために承の部分を相当戦略的に描かなければなりません。短編漫画は短距離走なので、もたもたしているとあっという間にページがなくなってしまいます。

初心者・中級者によくある誤解は、イントロで主人公のプロフィールを説明しただけで読者に主人公を紹介し終えたと思ってしまうことです。

例えばですが、私田中裕久のプロフィールをここで紹介したところでそれが私の人間性と何が関係あるでしょうか?

田中裕久 40歳。千葉県出身。千葉県在住。漫画教室運営。趣味はお酒を飲むこと。睡眠時間が長い。みたいな。

もしも私が私の人間性をみなさんに伝えようと思うならば、例えば私が初めてお付き合いをした人とこないだ20年以上ぶりにfacebookで繋がったとか、最近の悩みとか、そういった個人的な事情をエピソードで伝えることが効果的じゃないでしょうか?と思うのです。それをやるのが「承」です。

 

④なので、「起承転結」は厳密には「起承承転結」

なので、私は物語を5分割して、起承転結ではなく、承を2つ入れて起承承転結にしています。先ほどの山場だけをプロの漫画家さんに描いてもらう例を考えるとわかるように、短編漫画の勝負と言うのは、実は転の前で決まってしまっています。そこまでで、「けっ、この作家つまんないなぁ」と思われていたら、そもそもページを飛ばされてしまうでしょうし、例え読んでくれても山場で急に「主人公がんばれ」みたいな気持ちにはならないと思います。逆に、転までで「この作家好きだわ。面白い」と思われていると、山場が更に予想を超える展開を示した時、「この作家の単行本が買いたい」とか、「アンケートにこの作家を入れよう」となります。そのための承2つなのです。

ハリウッド映画など、山場に次ぐ山場のような展開だと「起承転転結」のようなストーリーラインになりますが、承が薄い分、キャラクターの掘り下げなども充分ではなく、映画好きな人からすると、「けっ、ハリウッド商業映画が」みたいな感じになります。

この承の役割は本当に重要なので、あとで実際に例を示しながら説明をしていきますが、ここでは、短編漫画においては承が大事。そして、承の役割は読者にイントロで紹介した主人公に感情移入をしてもらう、と覚えてください。

 

⑤伏線には先付けと後付けがある

先ほど示した承の機能のうちの1つ、伏線を張るということについてですが、伏線にはプロットの段階で想定している先付けと、ストーリーを描いている中で思いつく後付けがあります。これは不思議なことですが、面白いストーリーが描けているときは、イントロで何気なく主人公に言わせたセリフが後半で上手いこと繋がったり、中盤で出したアイテムを後半で活かせたりします。これは、おそらく面白いストーリーというのは人間の真理に近いのでそういう繋がりが生まれると思うのですが、自分の描いているストーリーの精度のチェックにもなります。

アイテム・セリフ・キーワードの役割についてもまた後日お話したいのですが、ここではそういうものが潤滑油になって、物語が滑らかに、昨日話したキャラクターの感情が動く場面と場面の間を滑らかに繋ぐものと考えてください。

 

⑥まとめ

と言う訳で、今日から中級編に入りました。話がより複雑になっていきます。このコラムは文字ばかりで読むのが大変だとは思うのですが、ぜひがんばって面白い短編漫画が描けるようになりましょう。

 

4作目 24ページ漫画を丁寧に描こう④

こんにちは。みなさんは楽しい朝をお迎えでしょうか? 私の方は新しく買ったロングジャケットを着ているので大変楽しい朝です。お洋服はね、本当によいですね。着ているだけで幸せな気持ちになります。

 

さてさて、このコラムも中盤にさしかかりまして、今日は4作目の最後です。「感情線」についてお話ししましょうね。

 

①「感情線」とは何か

 

「感情線」と私は呼んでいますが、これはイントロ1コマめから、ラスト、最後のコマまでの主人公及び周りのキャラクターの一連の感情の動きのことを言います。長編漫画もそうですが、短編漫画では特に、キャラクターの感情の動きが短いページの中に凝縮されるので読者はそのキャラクターの感情を追っていると言っても過言ではありません。そんな時に、キャラクターの感情がブツ切れていたり、読者が違和感を感じる感情の動きをすると、せっかく感情移入していたのに一気に冷めてしまいます(それが伏線になっている場合もまれにありますが)。なので、私たちはイントロからラストまで、文字通り、一連の流れでキャラクターの感情を丁寧に描く必要があります。これが滑らかかつダイナミックな作品が基本的には良い短編漫画の条件になります。もちろん、日常系のだらだら漫画のような感情線の起伏が少ない漫画もありますが。

 

②みなさんは濃い原稿が描けているか

 

以前、濃い原稿の話はしましたが、みなさんがこれまで描いてきた短編漫画で、主人公が悲しみを我慢して唇をかみしめ、それでも悲しみを堪えきれずに嗚咽を漏らすようなシーンはあったでしょうか? おそらく、ないと思います。少なくとも、私はこれまで漫画家志望者の原稿を読み続けてきましたが、そういう工夫をする生徒さんはとても少なかったです。みなさんは、漫画原稿の1ページの3分の2ぐらいを使った大ゴマで、不良の主人公が半笑いでライバルを睨みつけるようなシーンを描いてきたでしょうか?おそらく、描けていないと思います。私の教え子の吉沢くんは、デビュー直前、そういうシーンばかりを好んで描いていました。雑誌に載った時に、他の漫画家に負けない濃いい原稿を描くためです。

私は、こういう「濃い」「薄い」の話をする時に、いつも料理の話をします。私たちがお金を出して外食をする時、たいていのレストランは料理の味が濃いです。逆に家庭料理では、胸やけがしたり水が飲みたくなるような濃いい料理は出てきません。外食をする時は、せっかくお金を出しているのだから、多少体に悪くても味が濃いものを食べた方が「美味しい」という印象がお客に残るからです。漫画も一緒で、読者がお金を出してわざわざ読んでくださる原稿は基本的には濃いい味の方が良いのです。

 

③ドラマに感情の起伏を付けよう/感情を精密に描こう

 

漫画家志望者が何の工夫もしない原稿を描くとき、たいていの場合はプロの漫画家に比べて薄い原稿を描きます。日常のほほん漫画を除けば、これは多くの場合、よろしくないことです。まず私たちは、主人公がうれしいときは喜びを爆発させ、悔しくて泣いちゃうぐらい濃いドラマを作りましょう。その方が読者は感情移入してくれる確率が高いです。

主人公がものすごい恐怖を感じる、というシーンなどもとてもよいです。イントロでそういうシーンがあると、読者は思わずみなさんのドラマに釘づけになるでしょう。

もう少し高度な技になると、主人公が本当は大声で泣き叫びたいのだけれど、仕事中だから、諸事情があるから泣かないで無理をして笑うシーンなど、とても効果的です。主人公に生まれて初めての恋人ができ、それがとても素敵な人で仕事中思わずにやけてしまうシーンを描きましょう。これもとても効果的です。

初心者の方はいわゆる喜怒哀楽をはっきりと、大きく。中級車の方以上は人間の複雑な感情を精密に描くと、読者はその作者が作った感情の波に乗って、気持ちがだんだんとシンクロしてきます。

そういう計算を、ぜひみなさんにはしてほしいのです。

 

④主観的演出と客観的演出

 

私たちはこういう演出を「主観的演出」と「客観的演出」と呼んでいます。主観的演出とは、作者がその場面場面でどういうシーンを描きたいのか、キャラクターの感情をどういう風に描きたいのかです。客観的演出は、そういう自分の描きたいものを一度脇に置いて、自分が作ったドラマが客観的に見てどう見えるか。自分の演出意図通りに読者の気持ちを誘導できているかどうかを言います。

押しなべて、初心者は主観的演出が強くなりがちです。それは当たり前の話で、まずは自分の描きたいものを描けばよいのであり、読者にどう見えるかを4作目で考える必要はあまりありません。ぜひぜひ、濃い原稿を目指し、演出力フルフルでキャラクターに迫真の演技をさせてください。

少しだけ先回りすると、5作目以降は客観的演出、自分の原稿が読者にどう見えるかという視座が必要になります。しかし、これもあくまで途中の段階であり、9作目・10作目、本当に賞を取ったり掲載される作品を作るには、「自分の描きたいもの=読者が見たいもの」という原稿になる必要があります。

ここでは、みなさんには主観的演出を求めます。

 

⑤キャラクターの感情が動くシーンを丁寧に描く

 

もう1つ。キャラクターの感情線を描いていのに大切なのは、キャラクターの感情が動くシーン、濃い味の漫画だったら大ゴマで、薄味の漫画だったら繊細なコマ割りで丁寧に描くということです。読者は漫画の全てのコマを丁寧には読まないので、キャラクターの感情が動くシーンを適当に描いてしまうと読み飛ばしてしまい、キャラクターの感情についていけなくなるケースがままあります。そうならないように、大事なシーンにはくさびを打ち込むように、しっかりと、精密に、丁寧に、描きましょう。

逆の言い方をすれば、短編漫画とはそういうキャラクターの感情が動く大事なシーンとシーンの間をいかに上手に繋げていくかということでもあります。

大事なシーンをしっかりと描き、それを上手に繋げることができてはじめて、みなさんの原稿のキャラクターの感情線は繋がると言えるでしょう。そして、それを積み重ねていくのが長編漫画なのです。

現在、短編漫画はどちらかと言うと長編漫画の練習という位置づけになっていますが(短編漫画集はよほどのことがないと売れないので)、それを前向きに捉えれば、将来そういう長編漫画家になった時に上手で長い感情線を引く練習だと捉えることもできます。

 

⑥まとめ

 

キャラクターの感情線の話を1つのコラムにまとめようとしましたが若干無理がありましたかね。これは結構深い話と言うか、これが出来たら一人前の漫画家さんとも言えることなので、また後日触れます。今日は、濃いいシーンを作り、そのシーンとシーンの間のキャラクターの感情線を繋げるとよいという程度に覚えておきましょう。

 

 

 

 

4作目 24ページ漫画を丁寧に描こう③

こんばんは。今日の雨はすごかったですね。みなさんは楽しい月曜日の夜をお過ごしでしょうか?私の方は今日も教室の引っ越しの準備で漫画本を段ボール27個に入れました。やー、いつの間にか集まった漫画。すごいですね。

 

さてさて、今日もやりましょうね。前回は「感じの良いキャラクターを作ろう」というようなお話をしました。

今回はそこから進んで、そのキャラクターにドラマを起こそうというお話をします。

 

①24ページで描けるドラマ

短編漫画というのは、どこまで行ってもページ数というのが付きまといます。例えばですが、ボーイミーツガール。男のこと女の子が出会ってからお互いに好意を持ち、良い感じなり、すれ違いが起こり、それが解消されて2人がお付き合いするまでにはショートカット抜きで描くと60~70ページぐらいかかります。

また、私たちが観る2時間の映画は190ページから250ページぐらい。コミックスで言うと1巻から2巻ぐらいになります。

なので、2時間の映画を観て、同じようなものを作ろうと思っても、それはなかなか上手には出来ないことになります。

以前、映画監督の岩田ユキさんとお話をしていた時に、岩田さんは映画の序盤から中盤にかけて、主人公にこれでもかという情けない思いをさせると仰っていました。その方が、映画の後半に主人公ががんばってくれるから、と。映画と同じ長さの漫画を描くならばとても参考になる意見ですが、24ページでは、主人公に情けない思いをさせているうちにページが尽きてしまいます。

私たちはやはり、24ページ用のドラマを作るべきなのです。

 

②主人公たちは既に知り合いの方が良い

 このようにして24ページ漫画を考える時、まず注意したいのは、主人公とヒロイン、主人公とその仲間たちなどを含めたコミュニティを、出会ったところから始めないということです。先ほども言ったように、ドラマを出会いから始めるとページ数がかかるので、もうカップル・コミュニティが出来た状態からドラマを始めるのが短編漫画の基本になります。

もちろん、カップルが、あるいはコミュニティメンバーが出会ったシーンも大事です。しかし、それは回想の形で中盤に入れれば大丈夫です。構成力があれば問題なく出来ます。

それよりも、まずイントロはそのカップル、コミュニティがいかに魅力的か、前回のコラムで言うところの「感じの良い人々」かを読者にアピールしましょう。

例えば、イントロは深夜のファミレスでもよいかもしれません。ファミレスである集団がおしゃべりをしている。そのおしゃべりの内容だったり、メンバーの容姿(しぐさやしゃべり方も含む)が読者にとって好ましければ、読者はきっとそのコミュニティに興味を持ってくれます。

カップルでもそうです。主人公とヒロインあるいは主人公とヒーローがデートをしている。それでは、どんなデートをどんな服装やどんなスケジュールで行っていると読者にとって応援したくなるカップルに見えるか。例えばですが、高所恐怖症の彼が、ヒロインの要望で一緒に観覧車に乗っていて、やっぱり高いところが怖くて、というところから始まるデートシーンなんかだと私としては2人のドラマが観たくなります。

 

③24ページからはしっかりとした構成力が求められる

短編漫画は、なんの計画もなくなんとなく描いてみたら24ページだった、32ページだったでは上手になりません。お仕事でもそうで、普通、担当さんから今回は40ページをお願いします。というオーダーが来ます。我々は、そのページ数ピッタリのドラマを用意しなければなりません。

その時にとても便利なのが、以前にもご紹介したページ数とエピソード数の因果関係です。また載せますと、

9段落←→16ページ

11段落←→24ページ

13段落←→32ページ

15段落←→40ページ

でした。

なので、今回私たちは24ページ11段落の物語を作ればよいのです。

11段落のストーリー作りは、私は結構得意です。何故ならば、例えば先ほどのデート漫画だったら、1段落めは高所恐怖症の主人公と「大丈夫?」と心配する彼女。2段落めは「高いところ苦手だったら言ってくれればよかったのに」と言う彼女と「大丈夫大丈夫」と強がる彼氏。という具合に2段落を使う。あと、回想で2人が出会い、お互いが好きになるエピソードを1つ入れるという具合に、思いついたエピソードからプロット用紙に入れていけば、11段落ぐらいはあっという間に埋まるからです。

もちろん、上記だけでは、核心的な物語のテーマだったりクライマックスのシーンだったりがないので、もう少し考えねばなりませんが。

ただ、プロットを沢山作ったことがある私には、11段落のプロットを作ることはそんなに難しいことではないとお伝えします。理由は、何度も作るうちに、構成力が身についたからです。

 

④24ページ漫画のテーマについて

短編漫画にテーマが必要かという問題については私も色々考えたのですが、やはり、必要です。作品にテーマがないとあまりにも散漫な印象になってしまいます。

それでは、24ページ漫画ではどのようなことをテーマにしたらよいのでしょうか?

当たり前ですが、人間とは何か。生と死とは何かみたいな大きく重たいテーマは、普通扱うのが無理です。

それよりも、日常生活でみんなが潜在的に思っているけれどもなかなか言語化出来ないようなことをテーマにした方が断然面白い漫画が出来ます。

というと、高橋留美子さんの短編漫画がほとんどそれにあたることがわかります。

あのように、何気ない日常にちょっとした異物が入って来たり、日常の中で起こる人間ドラマを、気張らずに、しっかりとした構成で見せていくのが24ページ漫画なのです。

先ほどの観覧車のカップルだったら、夜のシーン、男の子が女の子に何かプレゼントを渡すのですが、その日一日でかいた汗で、堤袋がぐちゃぐちゃになっている、けれど、女の子はそれも含めて「ありがとう」と言う。ぐらいがちょうどよいのではないかと思います。もしくは、男の子が女の子にあげるプレゼントがいかにも高所恐怖症の子が選びそうなもので、それを見て女の子がときめく、みたいな。

 

⑤劇的なドラマは長いページで

私たちはせっかく漫画を描くのだから、短いページでも人が死んだり、トラウマが解消されたりする劇的なドラマを作りがちです。しかし、そういうドラマは長いページの方が有利で、短いページ、少なくとも32ページ未満の作品には向いていません。そして、大事な事は、短いページのドラマを薄味で描くのであっても、しっかりとした人間ドラマを作る練習をすることです。それが出来て、初めて長いページの、劇的なドラマが作れるようになります。薄味のドラマであっても、劇的な濃いいドラマであっても、出て来るのは人間であり、そこには我々人間が普遍的に持っている人間としての感覚が描かれるわけですから。

 

⑥まとめ

と言う訳で、今日は24ページ漫画で何を書くべきかを考えました。みなさんには、ぜひアイデア出しをしてもらい、24ページで描くべきテーマを見つけてほしいです。学園者などにすると、ちょうどよいテーマが見つかりそうです。

ぜひ頑張って探してみてください。

 

 

 

4作目 24ページ漫画を丁寧に描こう②

おはようございます。今日も良い気候ですね。みなさんは楽しい日曜日をお過ごしでしょうか?私の方は、教室の引っ越しがあるので草野球に行けず若干ぶーたれていますが、元気っちゃあ元気です。

 

さて、感情移入の続きです。

 

①出会って10分で「感じの良い人だな」と思わせる。

前回のコラムで、24ページ漫画を読むのに読者が使う時間はせいぜい10分ぐらいだという話をしました。リアル生活を考えると、出会って10分で「この人はすごい人だ。一生ついていこう」と思わせるのは、よっぽどのことがないと無理です。方法はありますが、それは9作目、10作目でやりましょう。まずは、「この人は感じが良い人だなぁ」と思わせる。4作目としてはこれで十分だと思います。漫画では、読者に「この作者はなかなかよいなぁ。もしもまた描いたのがあったら読みたいなぁ」ぐらいを思わせる程度で十分だと思います。

さてさて、それでは具体的にどのようにしたら、読者に「感じが良い」と思ってもらえるでしょうね。

 

人は見た目が9割

以前、「人は見た目が9割」という新書が売れました。私も熱心に読みましたが、この「見た目」というのは単純なビジュアルだけじゃなく、しぐさや話し方、表情なんかも含みます。漫画は「絵」です。まず主人公の見た目を読者の印象が良くなるように描きましょう。爽やかくんをアピールしたいなら、思いっきり爽やかに。美少年を描きたいなら、思いっきり美少年に。みなさんの筆の力が試されます。

漫画の主人公は、何もかっこいい・爽やかなだけじゃありませんから、さえない主人公を描きたいならさえない感じを「感じよく」描きましょう。

さえない感じを「感じよく」。なんか、違和感がありますね。どういう意味でしょう?

これは、「モノローグを上手に使おう」という意味です。リアル人間と漫画のキャラクターの一番の違いは、漫画のキャラクターはモノローグが使えるということです。モノローグとは独白、心の声です。吹き出しに入っていない文字です。

モノローグは基本的に主人公の正直な気持ちなので、そこを上手に演出すれば「感じの良い人」をかなり効果的に表現できます。

例えば、いじめのシーン。クラスメイトがいじめっ子にいじめられているのを見た主人公が、「はは。ざまあみろ。もっとやれやれ」と思うのと、「かわいそうだなぁ。本当は助けたいけど、オレ弱いしなぁ。ごめんね。助けてあげられなくて」と思うのでは、読者が受けるそのキャラクターの印象はだいぶん変わります。「性格の悪いやつ」を描きたいなら前者でよいでしょうが、「感じの良い人」ならば後者の方がはるかに効果的です。

 

③モノローグで日常系の共感、あるあるネタを使おう

特にイントロの主人公のモノローグは、このように日常的に読者が共感できるもの、あるいはあるあるネタを使うとよいです。「アメトーーク」という番組がありますが、あの番組の前半には、「〇〇あるある」というあるあるネタがよく使われます。あれは、視聴者に感情移入してもらうために行っていて、例えば「博多芸人」や「中学の時にイケてなかった芸人」など、ニッチなネタの時ほど秀逸なあるあるを並べて、観客・視聴者の感情移入を誘っています。我々も同じで、読者が「この人は感じが良いなぁ」と思うには、そういう自然な流れのあるあるネタが必要なのです。

また、小ネタやギャグも効果的です。読者がプッと笑ってしまうような小ネタ。くすぐり。こういうものも、読者に感情移入してもらうためにはとても効果的です。ただ、大きなギャグなどは、リスキーです。読者はまだみなさんの作品に感情移入していないので、そこで大きなギャグをやってスベると、読者はみなさんの漫画を閉じてしまうでしょう。

 

④本当は、オリジナリティが必要なのですが。

本当は、本当に面白いプロレベルの漫画が描きたいならば、イントロから独自の感性、面白さが必要です。読者が感情移入するときに、「この人感じが良いなぁ」ぐらいの印象ではなく、引きずりこまれるような腕力のあるネタ、感性、感覚が必要です。ただ、先ほども言ったように、これはとても難しいことで、これが簡単にできるほど漫画は甘くありません。

時々、います。最初からこれができる人が。リアル社会でも、中学生の時や高校生の時、学年に一人ぐらいいませんでしたか? 何をやってもその人らしい人。本人は普通にしているのだけれど、目立ってとても魅力的に見える人。私たちは最終的にそれができるようにならなければなりません。私はこれを「自分節」と呼んでいますが、自分節がある人は強いです。ちょうど昨日、漫画家さんに話を聞きましたが、漫画界で生き残っていく人は、やはり魅力的なキャラクターが作れる人だそうです。

なので、自分節の作り方は9作目、10作目でやりましょうね。

 

⑤まずは、感じよく

もう一つ、我々がキャラクターを作ることでとても大事なことがあります。それは、「コントロール」です。私たちは、たまたま思いついたアイデアをたまたま描いてみて、たまたま賞を取ったではプロになれません。狙ってやらないとダメなのです。プロの漫画家とは、漫画で原稿料をもらい続けることができる人です。それにはコントロールが必要です。狙った通りのキャラクターを作り、狙った通りに読者の感情が動き、狙った通りに売れる。そのためにはコントロールが必要なのです。なので、まずは、狙って、感じの良い人を描きましょう。これならば、そこまで難易度が高くなく、キャラクターにコントロールを付ける練習になります。ぜひぜひチャレンジしてみてください。繰り返しますが、その時に大事なのは「見た目」。モノローグなども含めての見た目です。

 

⑥まとめ

というわけで、今回も結構大事なことを言ったような気がします。漫画はつまるところキャラクターです。キャラクターが魅力的じゃないと漫画界では生き残れません。なので、まずはぜひぜひ感じの良いキャラクターを描いてみてくださいね。

みなさんのチャレンジ、楽しみにしています。

 

4作目 24ページ漫画を丁寧に描こう①

こんにちは! 田中裕久です。みなさんはここ地球で楽しい人間生活を謳歌しているでしょうか?私の方は今日は久しぶりに高校に漫画を教えに行く日だったので早起きしすぎてねむねむの午後です。

さて、今日からいよいよ4作目に入ります。みなさんは2ページ漫画・8ページ漫画・16ページ漫画が描けたという前提でお話を進めますね。

 

①感情移入という概念

 

感情移入という言葉は聴いたことがあると思います。ある対象物、多くは人間ですが、それに感情が移入してしまう、シンクロしてしまい、その人物がうれしい思いをするとこちらもうれしくなり、その人物が悲しい思いをするとこちらも悲しくなる、という人間の生理的感情の変化を言います。

実は、私たちの生活には感情移入が溢れています。例えば、サッカー日本代表の試合。多くの人は、W杯になると日本を応援し、日本の本田などがゴールを決めるとガッツポーズをして喜ぶし、逆に敵にゴールを決められると放心するほどのショックを受けます。何故でしょうか? 私はもちろんサッカー日本代表選手じゃありませんし、本田と家族でも友達でもありません。なのに、同じ日本に住む日本人がゴールを決めると、うれしい。これが感情移入です。

これは、リアル世界だけの現象ではなくて、フィクションの創作世界でも同じことが言えます。私が大好きなエピソードは、昔、高倉健さんが主演の任侠ヤクザ映画を観て映画館を出た男性は、みんながに股のヤクザ歩きになっていたというものです。もちろん、観客はそれぞれに色々な職業を持っています。しかし、稀代の名優高倉健が2時間のプログラムでドラマを見せると、公務員だろうが会社員だろうが工場長だろうが、職業関係なくつい高倉健さんに感情移入して同じ行動を取ってしまう。これが感情移入です。

 

②24ページ漫画で感情移入の概念を学ぼう

私たちはこれまで2ページ漫画・8ページ漫画・16ページ漫画を描いてきました。これらは、ページが短いだけに感情移入という概念がそんなに重要じゃありませんでした。しかし、ここからは感情移入がエンターテイメント作品にとって最も大事な概念になります。

スラムダンク」のみっちーを思い出してください。何故我々はみっちーが「オレ、バスケがしたいです」というセリフで感動するのか。それは、井上雄彦さんが組むプログラムの中で、我々は知らず知らずのうちにみっちーが元天才バスケットプレーヤーだったこと、しかしグレてしまってバスケットから遠ざかっていたことなどを知っています。なので、まるで肉親や友だちのような目でみっちーを見ますし、そんなみっちーが涙をこぼしながらもう一度バスケがしたいというセリフを言う時に思わずウルウルしてしまうのです。今、このシーンを見直そうとNAVERのまとめを見ていたら、どんぴしゃりのコメントが載っていたので転載します。

 

作者の井上雄彦によると、当初は三井をただの不良役で終わらせる予定であったが、体育館での喧嘩のシーンが予想外に長引き、その間に三井に感情移入したため、急遽予定を変更して湘北メンバーに加えることになったという

 

これですよ。まさに。これがなければ、あの有名な「あきらめたらそこで試合終了だよ」という安西先生の名ゼリフも生まれて来なかったわけです。

 

逆に、もしも私たちが漫画やアニメを見ていて、「ケッ。つまらない展開だなぁ。この作品の何が面白いんだろう?」みたいなことを思っていたとして、先ほどのみっちーのような素晴らしいシーンが出て来たらどうでしょう? きっとみなさんは、「まあ、このシーンはちょっとはよいけど、次巻は買わないな」という判断を下すのではないでしょうか? 何故ならば、みなさんはその作品に感情移入していないからです。

 

という訳で、漫画やアニメ、テレビドラマなどで感情移入がどれだけ大事な概念かご理解いただけたでしょうか?

 

③それを短編でやる

感情移入という概念を考えた時、長編漫画と短編漫画だと、長編漫画の方が圧倒的に有利です。何故ならば、読者がその物語に滞在する時間が圧倒的に違うからです。今日は徹底的に「スラムダンク」を例に出しますが、「スラムダンク」31巻を全て読むのには、どんなに早くても30時間ぐらいはかかるでしょう。読者は「スラムダンク」に30時間滞在するのです。一方、私たちがこれから描こうとしている24ページ漫画は、早い人で5分。じっくり読んでくれる人でも10分ぐらいで終わってしまいます。

私たちが家族や長く付き合った恋人に感情移入をするように、人間は長い時間、時を共にした方がより深い感情移入をしますから、短編漫画は長編漫画に比べて圧倒的に不利なのです。

ならば、短編漫画で読者に感情移入をしてもらうのは無理かというとそうではありません。私は実際に多くの良く出来た24ページ漫画を読んだことがありますし、短い時間でも読者にちょっと寛恕移入してもらう方法はいくつかあります。ただし、「スラムダンク」のみっちーと安西先生のくだりのようながっつりディープで思わず泣いちゃうようなのは、残念ながら無理です。それは、みなさんがプロの漫画家になり、長編がかけるようになってからしてください。

 

④ 24ページ漫画で出来る感情移入の方法/あるあるネタで読者に共感してもらう

短編漫画で読者に感情移入してもらうことは、リアルな人間関係を考えるとわかりやすいです。私たちは鳥山明さんでも羽海野チカさんでもないので、読者とは初対面です。リアル社会において、初対面、それも10分間ぐらいしか対面しない場合、いきなり仲良くなるのはとても難しいですよね。けれど、時々、気の合う人とか、あ、この人は素敵な人だなと短時間で思わせる人がいます。私たちは3次元でそれをやる必要はありませんが、2次元の原稿用紙を使って、読者にそれをやらなければなりません。

人と人が短時間で一番仲良くなりやすいのは、お互いの趣味が合うことです。そういう意味で「あるあるネタ」を上手に使って、読者に「ね、こういうことありますよね」と話しかけるのはとても大事なことです。そこで読者が「お、この作者わかってるなぁ」とか、「この作者の感覚、自分に似ているなぁ」と思ってもらえればしめたものです。「アメトーーク」という番組がありますが、「博多芸人」や「学生の時イケてなかった芸人」のように、ニッチなネタの時ほど「博多あるある」や「学生の時イケてなったあるある」のようなあるあるネタをやり、観客と視聴者に「あー、あるある」と笑わせながらシンクロしていきます。

私たちも原稿用紙を使って、読者に共感してもらう。「この作者わかってるなぁ」と思ってもらうことはとても大事です。

 

⑤自分節を炸裂させる/3点平均の原稿はいらない

自分節については追々お話していきますが、これもリアル世界で、「あ、この人魅力的だなぁ」と思う時に、その人の独特のオーラを感じることってありませんか? 私は野生爆弾の川島がとても好きですが、あの人などは「自分節」があり、他のお笑い芸人とは違った形で自分を表現しています。そして少なくとも私は彼のオリジナリティが好きなので、「魅力的な人だ」と感じます。みなさんも、みなさんのキャラクターやエピソードや背景・小物・世界観などで、それをやってほしいのです。そして実は、編集者がみなさんに求めていることは、まさにこれなのです。何人かの編集者の方は以下のように言います。「新人に求めているものは新しさやびっくりするぐらいのオリジナリティで、どこかでそういうものがある新人は欲しい。逆に、どこを取っても5円満点中3点ぐらいの原稿はいらない」と。編集者さんからすると、プロ経験がない新人に3点平均ぐらいの原稿を作ってもらうならば、プロとして経験があり、そんなに大化けしないけれども間違いのない原稿を作る漫画家さんに仕事をお願いした方が安心だし、安全なのです。

オリジナリティに溢れること、自分のストロングポイントで読者を魅了することは、大変大変難しいことです。しかし、これがないと、24ページぐらいの漫画で感情移入してもらうことは不可能なのです。

 

⑥まとめ

はい。と言う訳で、今回は感情移入の概念と、それを短いページでするには強烈な個性が必要だという話をしました。そして、それこそが編集さんが求めていることであることもお伝えしました。では、具体的にどうするかは、このコラムがだいぶん進んでからお話することにします。それでは、みなさんも原稿がんばってください。みなさんの活躍を心から期待しています。

 

 

3作目 16ページ漫画を落ち着いて描こう ③

こんにちは。田中裕久です。みなさんは楽しい水曜日の朝をお迎えでしょうか?私の方は朝日に向かってモンゴル式の鷹の舞いを披露したところです。

 

①プロの漫画家はとにかく濃い原稿を作っている

 

私が今日みなさんとシェアしたいのは、プロの漫画家は普段編集者ととてつもなく濃い原稿を作っているということです。これは、ストーリーもそうだし、エピソードもそうだし、キャラクターはもちろんだし、演出も、全てが漫画家志望者よりも格段に濃いいです。画面にしても、描き込みや画面の大きさなども含め、やはり濃い原稿を描いています。

以前、「漫画家志望者あるある」でも書いたのですが、私はこれまで14年間、漫画家志望者と一緒に原稿を作り、生徒は持ち込みに行きましたが、プロの編集者が驚きを持って「この原稿濃いいですね」と言ったのはわずか2~3作品です。私はこれまで1000作以上は確実に作品を作っていますから、どれだけ多くの漫画家志望者がプロよりも薄い原稿を作っているかはわかると思います。

我々が持ち込みをした時に担当してくれる編集さんは、普段井上雄彦さんの担当編集さんかもしれません。いつも野球で例えるのですが、井上雄彦という、160キロぐらいのスピードボールが出せるピッチャーの球を、普段編集さんはキャッチャーとして受け取っているのです。我々が現状出せる球の速さはよくて140キロぐらいのものでしょう。草野球ならば「すごいね」と言われるかもしれませんが、プロの世界では全然通用しない速さです。そんな我々が「この作品はこんなもんでよいだろう」「物語が破たんしちゃうからここは抑えよう」みたいに自分でセーブをかけてしまうことは、とてもとても危険なことです。それでは、プロのキャッチャーと本気のキャッチボールができません。

 

②では具体的に、どこを濃くすればよいのか。

 

では、どこを濃くすればよいのか。みなさんはまだ3作目ですから、基本的にどこを濃くしてもよろしいのですが、以前私が体験した「濃いい原稿」の話をいくつか。私の教え子で「描き込み」がとにかく好きな生徒がいました。丸ペンを1ページで1個使い終えちゃうぐらいの描き込み度合いです。彼は「ヤングジャンプ」で月間ベスト賞を取りました。その後彼はプロアシになり、連載作家になりましたが、私の教室でその原稿を懐かしそうに見て「今から見ると描き込み方がまったく素人だけど、プロになってしまった今の自分には描けない情熱がありますね」と言っていました。また、別の生徒さんはホワイトを筆に付け血しぶきのように吹き付けることをしていましたが、吹き付けすぎてホワイトで立体物を作ってしまいました。持ち込みに行った編集者は大爆笑で「チャンピオンレッド」で特別期待賞をもらいました。どちらも、もちろん掲載には至りません。そういうプロの技術はないけれども、情熱がほとばしっている原稿をプロの編集者は好みます。

 

③濃いキャラクターとは何か

 

このように、色々な面で作品を濃くすることができるのですが、一番理に適っていて、編集者受けが良い「濃い原稿」は、主に主人公など、登場するキャラクターが濃いい原稿です。名作と言われる作品ならば押しなべてキャラクターは濃いのですが、例えば「おぼっちゃまくん」の主人公、御坊茶魔などはいかがでしょうか? あれが、プロの濃さです。翻って漫画家志望者の原稿を思い出した時、私は、あんなに濃いいキャラクターに出会ったことは1度しかありません。その1回とは、「変態戦士 アブノーマルマン」という持ち込み原稿でしたが、絵は90年代ジャンプのいわゆる「古い絵柄」でしたが、持ち込む先々でとっても高評価でした。お見せ出来ないのが残念ですが、とにかくそのアブノーマルマンのキャラクターが濃くて濃くて、編集者は半笑いで「こんな濃い原稿、雑誌に載せられるわけないじゃないですか」と言ったそうです。それは漫画家志望者にとっては、最高の栄誉です。私たちも、ぜひぜひ濃いいキャラクターを作りたいです。

 

④暗く重たい話は濃いのとは違う

 

このように濃いい原稿の話をすると、多くの初心者の方は暗く重たい話を描きます。それは、暗く重たい話の方がドラマチックだし、一見濃そうに見えるからです。かく言う私も、創作経験が浅い時は、とにかく暗く重たい話ばっかり作っていました。親友が死んだり、主人公が孤児の美少女を拾ったり。もうね、「レオンか!」って話ですけど、その当時は大真面目にそんな話を書いていました。がんばってはいるんです。がんばって書いてはいるのですが、力の入れどころが違うのです。私は、3作目を描くみなさんが暗く重たい話を書くのは反対です。何故ならば、それはとても難しいから。これがキャリアを積んだプロの漫画家さんや上級の漫画家志望者ならば話は別なのですが、私たちはまずは、暗く重たい、劇的な話はやめましょう。そこでの濃さは必要ないです。

 

⑤明るく楽しい話を描こう

 

なので、明るい話を楽しく描きましょう。「おぼっちゃまくん」を思い出してください。「稲中卓球部」を思い出してください。どこにも暗く思いたい要素はないけれど、そこに登場するキャラクターたちは綺羅星の如く濃いいキャラクターです。濃いいキャラクターを短いページで立たせる方法については、また後日やりますが、まずは、明るく楽しいお話を目指し、そこで出来るだけ、自分の中のフルスロットルで濃いいキャラクターを描くことが、私がみなさんの3作目に求めることです。これは、みなさんが最終的に「ハチミツとクローバー」みたいな作品を作るときにも役に立ちます。ああいうシリアスな話でも、現代劇ではユーモアの要素は求められますから。 

 

⑥まとめ

 

と言う訳で、今日は 結構大事な事を話した気がします。とにかくキャラクターを濃く。シリアスにならずにコミカルかつ明るく。私は、みなさんがこういう3作目を書くことを現役のプロの漫画家さんが肯定してくれると確信を持って言えます。ぜひぜひそういう作品を3作目で描いてみましょう。