ガチ漫画初心者が、10作描いてマンガでデビューするための方法(リアル)

14年間漫画家志望者と一緒に短編漫画を作り続けてきた私が本気を見せます。なんて。見てね♡

3作目 16ページ漫画を落ち着いて描こう ②

こんばんは。田中裕久です。今日は金曜日。一日中外を出歩いていたのでちょっと疲れました。このコラムを書き切れるかなぁ。

 

さてさて、16ページ漫画の作り方の続きです。前回は、16ページは短いので、思い切って感情移入に寄らないマンガを作るか、起承転結はっきりしているけれど、構成を考えてだらだらしないマンガを作ろうとお話しました。

今日はその続きです。

 

①「出落ち」って言葉を知っていますか?

みなさんは出落ちって言葉を知っていますか? 舞台などで、出て来たインパクトが一番強くて、登場シーンがオチになってしまうことを言います。漫画でも、イントロのページ、めくりでドーンの見開きが一番面白く、その後は予定調和で驚きが無いマンガを言います。

以前、いるかMBAの生徒さんでビジュアルは古代ローマ人なのだけれど、現代のバリバリの女子高生の生活を描いた方がいました。とっても面白いアイデアで、私も素晴らしいと思い、きっと賞を取るか、上手く行くと掲載まで行くかなぁと思っていました。ページ数は16ページです。

持ち込みの結果を聴くと、イントロについてはこちらの作戦通り笑ってみてくれていたそうですが、後半になると厳し顔になり、「このマンガ、出落ちですね」と何誌かの編集部で言われました。賞は取れませんでした。

これは、その作者の方と私が、「古代ローマ人のビジュアルの女子高生」というアイデアに安心してしまい、後半に予想外なアイデアや、「うまい!」と膝を叩きたくなるような伏線の回収を作る努力を怠ったためです。

 

②編集者は常に先読みをしている、その予測を越えよう

 

編集者は自らをプロの読み手と考えています。そういうプライドが必ずあります。なので、彼らはみなさんの作品を読むときに、常に先の展開を予想しながらページをめくっています。で、予想通りの展開だと、「なんだよ。こんなオチ1ページめからわかってわ」とか、「なんかなー。何でこんな古臭いドラマ作ってるかなぁ。これだったら大御所の先生の方が新しいストーリーラインだよな」とか、そんなことを心の中でつぶやいています。私はあまり先読みはしないで読む方ですが、それでも14年も漫画家志望者の原稿を見続けていると、先の展開はだいたい予想が出来ます。

しかし実は、みなさんが付け入る隙はこの編集者たちの慢心とも言うべき我々に対する期待値の低さなのです。

彼らは読み手のプロですから、自分の予想が良い意味で裏切られる、「これぐらいだろ」と思っていたら予想を超える面白い展開やオチがやってくると、一般の読者の何杯も驚くし、喜んでくれます。

みなさんの作る漫画が秀逸であれば、彼らはプライドを捨ててみなさんを歓迎することだと思います。

 

③2段ロケット・3段ロケット

私は以前、短編漫画は企画を含めて3つの面白い要素がないとだめだと書いたことがありますが、先ほどの古代ローマの女子高生は、企画は面白いけれど、その後に面白さがない、予想通りの展開で、面白さが1つしかない作品だったので評価されませんでした。企画は面白いのですから、中盤のネタ振り、山場での回収、予想を裏切るオチが付くと、きっと面白さが3つある作品になり、その生徒さんは画力はあったので、もしかしたら掲載までを狙えたのかなぁと思います。

本当にもったいないことをしたなぁと感じました。私たちは面白い企画を思いついた時こそ、中盤、山場で2段ロケット、3段ロケットを矢継ぎ早に打ち出し、最後に全部を回収して終わるストロングスタイルを取るべきです。そういう意味で、荒木飛呂彦先生の短編漫画は、本当によい教科書になります。

 

④私たち新人に求められていること

編集者の方々が先読みをしている話が出た次いでに、編集者の方々が我々漫画家志望者もしくは新人マンガ家に何を求めているかをお伝えしましょう。それは、思い切りの良さと「新しい才能」です。何人かの編集者の方から直接聴いたので間違いありませんが、編集者の方が持ち込み原稿を見ていて一番萎えるのは、「オール3」の原稿、企画・構成・キャラクター・演出・画力・セリフ回し・モノローグなどなど、色々なトピックスについて、5点満点中オール3点の原稿だそうです。

ある編集の方は、「それだったら本当に原稿が仕上がるかわからない新人を使うより、中堅の手堅いマンガ家さんに仕事を任せた方が安全だ」と言っていました。本当にその通りだと思います。

我々に求められるのは、言ってしまえばキャラクター、キャラクター力が、5点満点中、6点の原稿です。構成はひどい。見れたものではない。画力もまだまだ。けど、このキャラクター性、キャラクターのセリフ回し、見たことない。めちゃくちゃ新鮮かつ売れる予感がする。これです。

 

⑤感情移入させないでよいのは実は武器になる

漫画に限らず、エンターテイメント作品、純文学作品で最も大事な概念は主人公への感情移入です。我々がオリンピックでブルガリアの選手を応援しないように、読者は自分が感情を移入したキャラクターの喜怒哀楽、奇想天外なストーリーには手に汗を握りますが、そうではないキャラクターに対してはそんなに強い感情を持ちません。

なので、24ページ以降の王道短編漫画は、読者に感情移入してもらう工夫をいたるところでしなければならないのですが、16ページ漫画は、端から感情移入をしてもらわないつもりだったら、たくらみ発動で面白い企画、面白いシチュエーションからドラマをはじめ、読者が驚いているうちに中盤・山場を駆け抜けて、あっけに取られている間にエンディングで店じまい、なんて方法も取れます。これは、ぜひチャレンジしてみて欲しいです。

先ほどのローマ人の女子高生に関して言えば、普通の漫画のセオリーだと、それでもそのローマ人の女子高生に感情移入してもらいたい訳ですが、感情移入してもらう必要がないので、「稲中卓球部」の前野と井沢よろしく、ハチャメチャな展開で物語をぶっちぎる面白さも可能です。

 

⑥まとめ・備忘録

さて、そんなわけで、出落ちはしないでね、と、読者の予想の斜め上を行く面白さを目指そうねという話をしました。明日は、それに引き続き、「濃いい原稿を描こう」というお話をするつもりです。

あー、寝るかと思ったけど寝ないで最後までかけた。ご清聴ありがとうございました。

3作目 16ページ漫画を落ち着いて描こう ①

こんばんは。夜もすっかり更けてきて参りまして、みなさんは楽しい夜更けをお過ごしでしょうか?

私の方は髪の毛の変色を試み、思ったほど金色にならなかったのでまた明日やろうかどうしようか悩んでいる夜更けです。

 

さて、このコラムも昨日で2作目が終わりまして。みなさんは8ページ漫画が描けたでしょうか?まだの人は、このコラムを読む前にぜひ描いて完成させてくださいね。

「耳年増」という言葉があるように、人間は耳でだけ色々な経験者の情報を聴いていると自分もなんだかその体験をしたかのような気持ちになり、本来レベル1なところがレベル10ぐらいの難易度のことをいきなりやろうとして失敗→挫折というのを、私はこれまで何度も何度も何度も見てきました。

人と話すなと言っているのではありません。人と話すことで、人間の脳みそは活性化されますし、話していながら改めて自分のやりたかったことがはっきりすることだってあります。

ただ、話しすぎると耳年増になりますし、口から情熱がこぼれてしまいます。居酒屋で100時間漫画論を熱く語るよりも、家で1時間ペンを握っている方が有意義です。

 

①さあ、3作目は16ページ漫画です。

 

さあ、そんなわけで、みなさんが2ページ・8ページ漫画が完成したという前提で、3作目の16ページ漫画に入りたいと思います。

16ページ漫画。これも独特の難しさがありまして。

まず、16ページで濃いい人間ドラマを描くのは、よっぽど工夫をしないと無理です。ページ数が足りません。「感情移入」という言葉があり、24ページ漫画以降になるととてもとても大切な概念になるのですが、16ページ漫画で読者を感情移入させるのは無理です。

これは、私たちが日常生活で体験していることを例に取ればわかると思うのですが。16ページ漫画を読むのに読者が使う時間はせいぜい5分です。私たちが日常生活で出会って5分の人に感情移入が出来ないように、たった16ページ5分のドラマをどれだけ一生懸命作っても、ほとんどの場合は感情移入していただく前にページが終わってしまいます。

なので、まずは感情移入の練習をせずに16ページを描き切る練習をしましょうね。

 

②物語内時間や空間を限定すると描きやすい

これは8ページ漫画にも言えるのですが、短編の中でも超短編である8~16ペーの漫画は、物語が起こる時間や場所を限定してあげると作りやすくなります。

例えば、高校の昼休みに起こる出来事。例えば、女子更衣室で起こるハプニング。と言いった具合に。萩尾望都さんの魁作「ポーの一族」の第一話では、16ページ漫画で40年ぐらいの歴史を描いていますが、ああいう飛び道具を使わずにスタンダードな16ページ漫画を作るならば、1時間とか、1日とかまず時間を限定してしまえばグッと作りやすくなります。

例えばですが、主人公がどこかに閉じ込められていて、残りの空気が1時間分しかない、といった具合いです。

先ほどの女子更衣室と組み合わせると、何かの事情で女子更衣室に入った主人公男子が、女子たちが来たもので慌ててロッカーの中に隠れたのだけれど、閉所恐怖症でロッカーの中にいられる限界が10分。みたいにすると、感情移入に寄らないストーリーが出来ます。

 

③もっとも16ページで起承転結をやってもよいのですが。

もっとも、特に少女漫画組の方々は、16ページでもしっかりと起承転結にまとまったお話を作らなければならないかもしれません。要は、構成力を身に付けたいのですが、白泉社コミックスの「はなとゆめ」は、持ち込み原稿を16ページに制限しています。これは1つの見識で、だらだらと長いものを描くんじゃなくて、ちゃんと起承転結をしたドラマを構成しなさいという宿題をみなさんに出しているのです。

さて、では私たちはその宿題に沿ってラブストーリーを起承転結で描こうとするのですが。やってみた事がある方はすぐにわかると思いますが、男女が出会い、お互いを好ましく思い、距離が縮まり、しかしすれ違いが起こり、けど仲直りをして、お互いの気持ちを確かめ合うという恋愛フルコースをやろうとすると、どうやっても16ページでは足りません。逆に、どれもが中途半端なダイジェスト漫画のようになってしまいます。

余談ですが、覚えておいてほしいのは、こういうボーイミーツガールのお話をショートカットなしで描こうとすると、だいたい60~70ページが必要です。なので、中編漫画以降となります。

 

④大事なところから始めちゃう

実は、同じことを8ページ漫画でも言ったのですが、恋愛ものを描くのに、出会いから描いていてはとてもページが足りない。ではどうするかというと、もうヒロインがヒーローと出会ってだいぶん時間が経っていて、好きで好きでたまらず告白せざるを得ない状況になっているところからドラマを始めたらよいのです。

8ページ漫画では、ファンタジー世界で敵との血みどろの戦いを終えた女剣士が王女に王冠をプレゼントするという漫画の話をしました。あの時にも、血みどろの戦いはあえて描かずに、それを演出する話をしました。

16ページの場合、8ページよりはページに余裕があるので、1回か2回の回想を入れることができます。大体の場合、そのうちの1個は2人が出会った場面です。2人が出会った場面から描くとページ数が足りなくなりますが、2人が出会ったシーンを2ページぐらいの回想で入れると、ページを喰わずに2人にとってとても重要な出会いのシーンを読者に示すことができます。

同じように、主人公やヒーローの感情が動いたエピソードは、回想という形を取り、手短に読者に見せるようにしましょう。キャラクターの感情が動くシーンはとても大切なので、それをみせる必要はあります。

 

と、こうやってあれこれと言ってますが、これが要は「構成」なのです。「はなとゆめ」の編集者の方々は、10代のはなゆめ持ち込み女子に、こういう工夫をしてほしがっているとご理解ください。

 

⑤貯めて貯めたスペースは一気にドンと使おう

さて、16ページ漫画の神髄です。荒木飛呂彦先生の短編漫画などを読んでいると本当にこの通りなのですが、私たちが何故ちょっとずつコマを節約しているかというと、自分の見せたい絵・見せたいコマに惜しげもなく分量を割くためです。

読者が16ページ漫画でみたいのは、ちまちましたコマの漫画ではなく、そうやってちまちました先にある「どーん!」という会心のコマが欲しいからなのです。

このコマに関しては、ぜひ遠慮せず、長編漫画と同じぐらいの大きさと濃度・密度で自分が読者に見せたいアイデアだったりコマだったり面白いと思ったことを見せるとよいと思います。そうすることで、読者は「お、この新人面白いな」とか編集者は「この子はちゃんと育てたらもしかしたら伸びるかもしれないぞ」といった気持ちになるのです。

ちなみに先ほどの荒木先生の場合は、16ページ中に描きたいコマが14・15ページの見開きにあり、それを見せるためだけの漫画を描くので、イントロからラストまで無駄ゴマが1つもないような漫画が生まれます。

 

⑥まとめ

はい。と言う訳で、今日は16ページ漫画の概略というか入口についてお話しました。16ページ漫画って、8ページに比べると更に難しいページ数です。

明日からも勉強をして、16ページで担当者が付くような、受賞が出来るような漫画を作りましょうね!

 

おやすみなさん。

 

2作目 8ページ漫画を思いきり描こう!! ④

こんばんは。地上に舞い降りた最後の天使こと田中裕久です。

みなさんはここ地球で楽しく生存されていますでしょうか?

私の方は生存しつつ、こうして無事にコラムを書いています。

 

さて、4回にわたってお送りしてきました2作目についてなのですが、今回が最終回です。がんばっていきましょう。

 

①特に主人公の「何故?」にこだわって深掘りしていく。

昨日までで、私たちは一応ボールペンを使ってのプロットを作っていたのでした。

こうでした。

1.ボールペンで文字を書いてインクをめちゃくちゃ消費している主人公。

2.回想:これまでは授業中も放課後もノートに勉強に関係のないもの、好きな子の名前だったり、全国の都道府県の羅列だった利を書いていた主人公。そこにヒロインが来て、何らかのエピソードで主人公に「勉強しなよ」と言う。

3.回想戻り:勉強をするようになった主人公はそれまで学年で最下位だった順位が一番になるほど急激に学力がアップする。東大を受験したい何らかの動機(ヒロインがらみかな)。

4.東大試験。途中ボールペンのインクが切れるアクシデントなどがありつつも、無事試験を終える。

5.見事東大に合格。ヒロインがらみの目的を達成する。

 

99パーセントの漫画家志望者は、これで満足してネームに入るのですが、私たちはここで満足してはいけません。何故ならば、このプロットは、作者の私自身何故そうなのかがまったくわかっていないからです。

まず、主人公が何故ボールペンオタクなのか。何故ヒロインは主人公に勉強するように言うのか。何故主人公はそれに従うのか、などです。こういった何故にきちんとした答えがないと、読者が納得する原稿になりません。

 

②良い短編漫画の主人公は、続きが読みたくなるキャラクターであるべき

さて、ここでは主人公のキャラクターを深掘りしていきたいのですが、短編漫画における良い主人公とされる人物については実はかなりはっきりした答えがあります。それは、「ストーリーが終わった時、そのキャラクターの今後が見たくなるキャラクター」「読み終わってしばらくの間、そのキャラクターが読者の頭に残り、また会いたくなるキャラクター」です。大手編集部の編集者に聴けば、だいたい以上のような答えが返って来るはずです。

私たちは、短いページながらそれを目指さねばならないのですが、どこでそれを出していくかと言えば、①で指摘したキャラクターの何故?です。

まずは、主人公が何故ボールペンおたくなのか。何故ボールペンのインクをそんなに消費したいのか。この理由を、読者が魅力的に見えるように考えていきます。

イデア出しは、例によって最初に出て来たアイデアではなく、10個ぐらい出してそこから選びましょう。

・主人公はこの世の全てのボールペンのインクをこの世からなくそうとしている。

・死んだ父が遺言で「ボールペンのインクを沢山使う人生を歩め」と言った。

・ボールペンのインクの匂いを嗅いでいると、とてもエッチな気分になり恍惚感に浸る。

・理由はない。

・書いている間、ボールペンと会話をしていて、ボールペンにギブアップをさせたい。

・ボールペンのインクの匂いを嗅いでいると、とても落ち着く。逆にその匂いを嗅いでいないと不安になる。

・昔好きだった女の子に借りたボールペンを使った時に初恋をしたので、その衝動が残っている。

・昔好きだった女の子がボールペンフェチで、いつもボールペンで何かを書いていた。

 

出ましたね。正解が。書いていて不安だったのですが。

こんなのはどうでしょう。主人公は小学生の頃、好きだった女の子がいつもボールペンを使っていたので、その匂いを嗅ぐととても落ち着いた気分になった。その子が転校してしまったのでいつしか自分でボールペンをいつも使い、匂いを嗅ぐようになった。その好きだった子が、イントロで主人公のクラスに転校してくる。

一気にヒロインの問題も解決しました。

ちなみに、こういうストーリーが始まる前のエピソードを、私たちはバックストーリーと呼んでいます。

 

③困りました。。ストーリーがページ数に収まらなくなりました。

 

そうすると、ストーリーを若干修正する必要があります。

1.ボールペンで文字を書いてインクをめちゃくちゃ消費している主人公。ノートに魚編の漢字をひたすら書いている。その時、すごくかわいいヒロインが転校生としてやって来る。

2.回想:小学校の頃、好きだった女の子がいつもボールペンを使っていて、隣りの席の主人公(コミュ力低め)はその匂いを嗅ぐのがとても好きだった。明るいヒロインは友達が多かったが、常に主人公にも明るく対応してくれて、主人公は彼女にほのかな恋心をいだいていた。しかしある日、彼女は転校してしまう。

3.回想戻り:その転校生が主人公が昔好きだった子だったとわかる主人公(相変わらずコミュ力低め)。ヒロインは主人公に気づき、「学校のことを色々教えて」と言う。赤くなりながら魚編の漢字を書き続ける主人公。ヒロイン、主人公のボールペンを褒める。そして、自分もいまだにボールペンを使っていることを告げる。2人は同じメーカーのボールペンが好きで使っていた。うれしい主人公。

4.ヒロインは受験勉強をひたすらボールペンを使ってやっていた。主人公はこれまで勉強などしたことがなかったが、ヒロインが東大を目指しているのを知り、自分も東大に行こうと決める。成績がみるみる上がる主人公。

5.見事東大に合格。ヒロインがらみの目的を達成する。

 

困りました。これでは8ページにストーリーが収まりません。主人公とヒロインの恋、主人公の東大への合格を描こうとすると、どうしても32ページ以上は必要です。

 

④軌道修正 キャラクターは頭の中で出来ているので修正します。

 

さて、上記のプロットだと、主人公の成長譚は描けません。ただ、私はこのボールペンでひたすら文字を書く主人公が好きです。なので、このキャラクターは活きにして、東大を目指す話、ストーリーの方を切ります。創作は時に、こういう見切りも必要です。

で、次は何を考えるかと言えば、8ページ中、6~7ページめで見せられる面白い絵だったり出来事、出来ればヒロインがらみで、を考えます。

今考えたのは、「耳なし保一」じゃないですが、肌の主人公がヒロインに体中にボールペンで文字を書いてもらう絵です。ギャグもしくはシュール系漫画です。これで行っちゃいたい気もしますが、これは一応お手本漫画なので、こういうニッチなものはやめておきましょうか。

で、またアイデア出しです。この主人公・ヒロインが活きで、2人が一番見栄えのする6~7ページのアイデアは何か。

・2人でカリカカリカリひたすらボールペンで字を書く。

・お互いの手にボールペンで字を書き合う。

・1本のボールペンをシェアする。

・ボールペン部を作る。

・時間が飛んで、老人になっても2人でボールペンで字を書いている。

・クラス全体がボールペンフェチになっている。

・2人で般若心経の写経をしている。

・彼女は絵を、主人公は文字を書き、相田みつをみたいな感じになっている。

 

困りました、良いアイデアが出ません。

 

⑤何が悪いのか、この状況をどう打破するのか。

 

書きながら気づきました。このプロットは、相当何かがないと上手くいきません。というのが、ボールペントいうものを題材にしたのがまず失敗で、これがアイテムとしてニッチすぎる。ボールペンの匂いフェチというのが、読者の共感を得られないので、主人公が変わっている型のキャラクターにならざるを得なくなり、結果、体中にボールペンで字を書いてもらっているというニッチなフェチズムが一番良いアイデアになってしまうのです。これが投稿作だったらこのまま押していってもよいのかもしれませんが、一応お手本的なものにしたいので、今度は「主人公の成長・変化」の方面から考えてみます。ボールペンで字を書くのが好きだった主人公がどう成長変化すれば物語が変わるのか。

すぐにアイデアが生まれました。主人公がボールペンで文字を書かなくなればよいのでます。

周りの人たちとのコミュニケーションを一切遮断し、ひたすら文字を書き続けていた主人公が、初めて文字を書くのを止めて、ちょっとだけみんなとコミュニケーションを図れるようになる。

よかった~。これで一応話が出来ました。

そのために、バックストーリーやエピソードを若干変えます。

1.主人公はクラスの誰とも話したことがない青年。ビジュアルは超絶イケメンだが、いつもひたすらボールペンでノートに般若心経を書き続けている。主人公はボールペンの匂いを嗅ぎ、般若心経を書くと心が落ち着くのだ。美人な転校生がクラスで紹介されるが、一切興味を示さない主人公。

2.回想:小学生の時、隣りに座っていた女子がボールペンで字を書くのが好きだった。そのかすかなインクの匂いを嗅ぐのが主人公が一番好きな時間だった。主人公が人生で唯一クラスメイトと会話をした一言、それは「そのボールペン、良い匂いだね。どこのメーカー?」だった。その子は転校してしまった。

3.回想戻り:主人公はそれ以来同じメーカーのボールペンを使い続けている。転校生が隣りに座り、ノートに文字を書き続ける。彼女も同じメーカーのボールペンを使っていた。ちょっとだけ気になる主人公。ヒロインに「あ、同じメーカー」と言われる。ヒロインは主人公が唯一話したことがある女の子だった。ヒロイン「もしかして、田中君?」

4.ヒロインが隣りでほとんど自分の代わりのように文字をカリカリ書いてくれるので、初めてクラスを俯瞰する主人公。見ると、結構色んな人がいて、楽しそうに会話をしたり、音楽を聴いたり、青春をしている。ボールペンのほのかな香りがする。「what's the beautiful world」と呟き、それまで悟れなかった般若心経の意味が分かる主人公。隣りの席のヒロインに、「オレ、青春しちゃって、いいかなかぁ」

5.主人公は相変わらず般若心経をかりかりノートに書いているが、クラスメイトに「あ、あのさ、田中、お前に恋のお守り書いてもらうと成就率跳ね上がるって聴いたんだけど、書いてくれないかな」と言われる。「いいよ。けど、チェリオ1本な」ノートの切れ端に般若心経を書いて渡す主人公。超かっこいい。それを見てウインクするヒロイン。

 

⑥まとめ

 

みたいな感じでどうでしょうか? とりあえずざっくりですが、プロットを作ってみました。これは、ヒットではありません。ボールペンというアイテムがニッチすぎたのとアイテムを上手に使いきれていない気もします。これで持ち込みに行っても、編集者さんに結構渋い顔をされる気もします。けど、画力で主人公をかっこよく、ヒロインとの会話を爽やかにかっこよく描けば、担当さんがついてくれるぐらいにはなるかもしれません。

今回、一番大事なのは、昨日までのプロットのストーリーを切って、主人公のキャラを立たせようとしたことです(そんなに成功しているとも思いませんが)。みなさんもストーリーに困った時は、キャラクターを立たせる方を優先してみてはどうかと思います。

おしまい。

 

 

 

 

2作目 8ページ漫画を思いきり描こう!! ③

こんばんは。今日は日曜日です。みなさんは楽しい日曜日の夕べをお過ごしでしょうか?

私の方は、夕方から軽く飲んで、良い感じで酔っぱらいながらこの原稿を書いています。「書くことは 呼吸だだから ただただ 呼吸困難だった」枡野浩一さんの歌ですが、その気持ちがすっごくわかります。昔、若いときは文章をこんなに簡単には書けませんでした。それが書けるようになるのはやはり大人になって色々な経験をしたからでしょう。

私はこのコラムを特に若い人に向けて書いている訳ではないのですが、若い人にはつらくても漫画や小説の制作を頑張ってほしいです。

 

①すいません。ちょっと間違ってました。

前回、前々回と、私は8ページ漫画を「起・結」と説明していたのですが、それはちょっと間違いでした。正確には、「起承承転結」か、「起承転転結」の5ブロックだと思います。8ページ漫画と言えど、一度は転がさないとだめです。それをどう転がすかは皆さん次第です。順接で転がす時には「起承承転結」になるでしょうし、裏切りや「実は・・・」という方向で転がす時には「起承転転結」です。

では、私たちは8ページで何を見せたらよいのでしょうか。

8ページ漫画とは詰まるところ何か、と言えば、「見せたいコマを見せるためのマンガ」もしくは「見せたいコマを見せるために構成されたプログラム」と言えます。前々回出した森薫さんの「昔の水着」では、人妻が少し大胆な水着を着るシーンを見せるためだけにストーリーは構成されていました。

私たちはこういう見せたいコマを見せるためにイントロからする計算を「逆算」と呼んでいます。みなさんが大好きな荒木飛呂彦さんの短編漫画なども、見せたいコマ、例えば16ページ漫画で15ページ目にくるシーンを見せるためだけに逆算して、イントロからそのコマを見せるためだけの構成をします。無駄ゴマ、無駄セリフは一切ありません。

ちなみに、8ページ、16ページの漫画というのは、本当に無駄ゴマ・無駄ゼリフ・無駄エピソードが入れられないジャンルです。「はなとゆめ」など、大手少女漫画誌が持ち込み原稿をあえて16ページにしばるのは、作者にそういう短いページのストーリーを描かせて、構成力を身に付けたいからだと思います。普通の恋愛物語を普通に描こうとしたら、どうしても32ページは必要なところを、いかにダイエットするか、いかに無駄を省くかを最初のうちに覚え込ませるためです。

 

②プロットが溶けたアイス型にならないためにすること

私は、初心者の作るプロットの多くを「溶けたアイス型プロット」と呼んでいます。イントロ、一応まとまってはいるのだけれど、既に無駄なエピソード、無駄な会話が入っている。それが中盤①になると、更に無駄が増え、プロットを書いても書いても山場にたどり着かずにプロット事態を放棄する、そんな経験を皆さんはしたいことがありませんか?それは、まるで溶けたアイスのようです。

プロは先ほど言った逆算を使うので、イントロから無駄なものがないので、自分の予定通りに後半に見せたいコマをしっかり見せられる8~16ページの漫画を作ることができます。

何故プロは溶けたアイス型のプロットにならないのか。「経験が豊富で体が構成を覚えている」と言ってしまっては身も蓋もないですが、これは結構本当の話で、私も以前1か月に3本の40ページのプロットを完成させるお仕事を1年間ぐらいいただきましたが、人は月に3本プロットを完成させていると、中盤①の部分まで書いたところで「あ、テンポが悪いな」とか、『もう少しエピソードを足して中盤を分厚くした方がよいな」とか、そういったことを体が覚えました。

なので、みなさんには悪いことは言わないので月に2本はプロットを「終わり」まで書いてほしいのですが、それでも早くに上達するコツはあります。今日はそれを説明しましょう。

 

③5段落のプロットを箇条書きにする

プロットを溶けたアイス型にしないためにすること、それは、

1.プロットを箇条書きにする。

2.プロットを上から順番に作らない。

これに限ります。

先ほど言ったように、大学ノートにびっちりストーリー順にシナリオのようなものを書くことを否定はしませんが、成功率で言うと、こちらの方がはるかに簡単にプロットが作れます。

短編漫画の物語構成要素の数とページ数は、かなり正確に法則性があります。がっつりエロやバトルシーンが入らない漫画の場合、

8ページ←→5段落

16ページ←→9段落

24ページ←→11段落

32ページ←→13段落

40ページ←→15段落

という感じです。これはかなり多くの漫画で実証されている数字です。なので、私は先ほどの40ページのお仕事をいただいたとき、すべてを15段落で作り、ページ数ぴったりでした。

なので、みんさんはまずこの8ページ漫画を描くにあたり、5段落のプロットを作ればよいのです。

イメージで言うと、

1.2ページ 起(イントロ)

2.2ページ 承(中盤)

3.1ページ 承(中盤)

4.2ページ 転(山場)

5.1ページ 結(後日談)

 こんな感じです。裏切りに次ぐ裏切りみたいな構成にしたい場合は、承が1つで転が2つでもよいかもしれません。

このテンプレートでお話を作れば、みなさんは確実に溶けたアイス型のプロットから抜け出せるはずです。

 

④思いついた順に書いて、最後に数合わせをする。

さて、プロットを箇条書きに書くのと並んで大事なのは、プロットを上から順に書くのではなく、思いついた順、確定しているエピソードから順番に書いて、最後に数合わせをすることです。

だいたい、みなさんはこれから描く作品のイントロはわかっているものです。例えばですが、前回出したアイデアの「ボールペン」で構成をするならば、1段落めは、主人公が家の学習机に向かって尋常じゃないオーラを出しながらボールペンでノートに何かを書いているシーンから始めます。主人公の机の周りには使い切ったボールペンが何十本も転がっていてもよいかもしれません。

 

で、多くの人はこの後、次のシーンを考えるのですが、溶けたアイス型のプロットにしないためには、次に山場を考えます。このお話ならば主人公が東大に合格するのがゴールなので、東大の二次試験を受けているシーンなどどうでしょうね?例えば、主人公だけはえんぴつじゃなくてボールペンで受験をしていて、試験中にボールペンのインクを使い切ってしまってピンチなんてよいかもしれません。これを4段落辺りに置いておきます。

そして、これが山場のシーンになると、後日談は当然、東大に合格するで、この4.5段落がメインになるように逆算をします。例えばですが、2段落めはクラスで授業中シャカシャカとボールペンでノートに好きな子の名前を書き続ける主人公の絵でもよいかもしれません。すると、すらすらと3段落めが生まれてきます。今までボールペンで勉強に関係ないものを書き続けていた主人公が、勉強をするようになる「きっかけとなる事件」を入れればよいのです。それはヒロインのサジェストかもしれないし、教師の助言かもしれません。

 

⑤ストーリー化してみます。

 

まとめますと、

1.ボールペンで文字を書いてインクをめちゃくちゃ消費している主人公。

2.回想:これまでは授業中も放課後もノートに勉強に関係のないもの、好きな子の名前だったり、全国の都道府県の羅列だった利を書いていた主人公。そこにヒロインが来て、何らかのエピソードで主人公に「勉強しなよ」と言う。

3.回想戻り:勉強をするようになった主人公はそれまで学年で最下位だった順位が一番になるほど急激に学力がアップする。東大を受験したい何らかの動機(ヒロインがらみかな)。

4.東大試験。途中ボールペンのインクが切れるアクシデントなどがありつつも、無事試験を終える。

5.見事東大に合格。ヒロインがらみの目的を達成する。

 

という具合いに作っていくと、あら不思議、すごく簡単に構成が出来ます。もちろん、このあと、主人公が何故そんなにボールペンで文字を書くのが好きなのか、何故ヒロインが主人公に勉強を勧めたのか、何故東大を受験しようと思うのかなどを考えていかなければなりませんが、とりあえずの構成、溶けたアイス型ではない構成はこれで出来ました。

 

⑥まとめ

 

そんなわけでまとめです。最後の部分、主人公の動機の掘り下げなどはこれからやらなければならないことですが、こうやってプロットを組むと、上から順番にプロットを組んでいくよりも驚くほど簡単にプロットが作れます。

このコツをみなさんにも覚えてもらい、私はみなさんに最低月2本のプロットを書いてほしいです。先ほども言ったように、この理論に従ってハードトレーニングをして、まずは体で覚えないといけないこともありますから。

 

それでは。

2作目 8ページ漫画を思いきり描こう!! ②

こんにちは。田中裕久です。みなさんはご機嫌よろしゅう金曜日の午後をお過ごしでしょうか?

私の方は、烈火の如く仕事をしていますよ。人生は短い。ぼーっとしているとあっという間に墓場が近づいてきます。

 

さて、昨日の続きをやりましょうね。

 

①みなさんは猛烈に描きたいものがありますか?

 

昨日のコラムにも書いたように、8ページ漫画は起承転結ではなく、起・結なので、イントロからのスタートダッシュ、アイデアがとてもとても大事になります。もうほとんど、アイデア勝負と言ってもよいかもしれません。

ところで、みんさんは漫画で猛烈に描きたいものはありますか? ある人は、ハッピーです。例えば私の畏友、小林モリヲ先生はツリ目男子が大好きで、それがあればご飯を何杯でも食べれる感じであり、小林先生の作品を見ると、「このコマ描きたかったからこの漫画描いたでしょ?」と言いたくなるほど猛烈にツリ目男子を描きます。

 

私は残念ながら、そこまで描きたいものはないのですが、みなさんにもしそういうものがあれば、それを描くことをお勧めします。題材はそれで、8ページ中7ページめでそれが来るようにすれば、みなさんの漫画は少なくとも「何をやりたいかはわかる」漫画になると思います。

 

それでは、私のように特に猛烈に描きたいものがない人はどうするか。これは、とにかく「面白い物」を考えて、メモって行くしかありません。

私は歩いているときと、ドトールにいる時と、シャワーを浴びている時に良いアイデアが出ることが多いので、この3つの時間をとてもとても大事にしています。例えばですが、「ジャニーズの嵐の5人の中に、僕みたいなおっさんが加入して、ファンなどにブーイングを浴びながらそれでも泣きながらがんばって嵐の一員としてがんばる」って、絵的に面白そうだな」とかいう妄想?をニヤニヤしながら考えるわけです。で、これは8ページじゃ収まらないだろうな。主人公の努力のシーンとか入れなきゃだから、40ページはいるなぁと、そんな計算をしながらいると、シャワーや散歩の時間はすぐに埋まります。

みなさんにも、そんなアイデア出しをしてほしいのです。

 

②8ページ漫画のアイデア出しの方法

 

上記のような妄想型、ニヤニヤアイデア出しはかなり漠然としているので、明日までに、あるいは来週までに8ページ漫画のアイデアを出したいという方には、以下のやり方を勧めています。

まず、固定でキーワードを決める。例えば、以前「漫研コミュ」で仲良くさせていただいた生徒さんならば、「女性の太もも」というキーワードを固定する。で、女性の太ももをどういう風にすると面白いかを徹底的に考えるのです。その時は、女性の太もも展示会を開催する変態のおじさん、みたいなアイデアが彼から出てきて、私はとっても面白いと思いました。他にも、例えば「ちくわぶ」。ちくわぶというかなり中途半端な食材を擬人化し、それをどうやって使うと面白いかについて徹底的に考えていた生徒さんもいました。大事なのは漠然とアイデアを出そうとするのではなく、とにかく何かキーワードを固定して、そこから徹底的にアイデアを拡げていくことです。

 

③ちょっと即興でやってみましょうか。

 

例えば、今私の机の上にはボールペンがあります。ボールペンで8ページの漫画のアイデアを出してみましょうか。

 

このボールペン、ノートに思念と共に殺したい相手の名前を書くと人が殺せると、『デスノート」になりますね。まあ、もちろん8ページじゃ無理ですが。じゃあ、好きな人の名前を書くと両想いになるボールペンとかどうでしょうか?それだったら、主人公が好きな人の名前を必死に調べるとかで8ページになります。他に、明日起こる出来事が自動筆記出来るボールペンとか、特殊能力系でアイデアがいくつでも出ますね。

 

他の角度から。例えば書き心地はすごいよいのだけど、すっごい臭いボールペンとか。あるいは逆に、すごい良い匂いのするボールペンとか。

 

あるいは、また別角度から、ボールペンを一本使い切るまでノートに文字を書き続ける変わった少年。これまで3年間、とにかく一日一本のボールペンを使い切るまで文字を書き、気づいたら東大合格とかどうでしょうか?

 

と、私はここまで一回も手を止めず、即興でアイデア出しをしました。そんなに素晴らしいアイデアでもありませんが、とりあえず8ページの題材の基にはなると思います。

 

④これを続ける

せっかく何十時間もかけて8ページ漫画を作るのです。アイデア出しを徹底的にして、最高のアイデアと出会いませんか?

私は先ほどのアイデアを5分で書きましたが、これを10時間ぐらい続けるのです。最初に出るアイデアは、私の経験からもそんなに大したものではありません。けれど、私の場合だったら散歩中・ドトールの中・シャワー中にとにかくアイデアを考え続ける。そして、忘れないうちにメモる、という作業を続けます。

みなさんもそれをやれば、必ず良いアイデアと出会えると、私は確信しています。次回はそのアイデアの拡げ方をやりますが、まずはアイデアを沢山出して、その中からベストワンをチョイスするのが大事だと、心から思います。

多くのクリエーターが言っていますが、慣れて来ると、「正解」がわかるようになります。例えば『ボールペン」というお題でアイデア出しをして、ずーっと粘ってすごく良いアイデアがひらめいた時、「あ、正解はこれだったのだ」と。

私もわかるようになりました。なので、アイデア出しは非常に前向きで楽しい作業です。

 

⑤写真を使ったアイデア出し。

もう1つ、偶然に頼ったアイデア出しの方法のご紹介です。以前、誰の本で読んだか忘れてしまったのですが、その方は家を出てから、例えば「黄色」と決めたら、街の中のありとあらゆる黄色い物を写真に収めるそうです。で、家に帰ってその一日で撮った何十枚の黄色いものから偶然のつながりを見つけて物語を作るそうです。私も試してみましたが、例えば「左寄りのもの」とか決めて街を歩くと、結構左寄りのものはあります。で、それをアイフォンでどんどん撮って、家でまとめてみると、本当に予想もしないお話が生まれたりしました。簡単に出来ることなので、みなさんもぜひ一度試してみてください。

 

⑥まとめ

 

そんなわけで、今日は8ページ漫画のアイデア出しの方法について話しました。他にも、いろんな方法があるのですが、私が普段日常的にやっているものは上の2つです。

あと、自分の脳みその調子が良い時間というのもあって、その時間にアイデア出しをするとよいアイデアと出会えたりします。

 

私は、いるかMBAを立ち上げ、生徒が来なくて不安で仕方が無かった時に、こういうアイデア出しの本を何十冊も読んだのでわりとこの分野には詳しいです。質問などありましたら、コメントください。

 

それでは、みなさんが面白い8ページ漫画のアイデアと出会えることを願っています。

 

 

 

2作目 8ページ漫画を思いきり描こう!! ①

こんにちは。いるかMBAの田中裕久です。

今日は涼しいですね。みなさんは風邪などひかずにここ地球で楽しい人生をお送りでしょうか?

私の方は、今日はなんだかテンションが高めで楽しく人生を送っています。私の人生の目標は、全てのことから自由になること。それは、最終的には棺桶に入って焼かれる瞬間なのですが。

 

さて、みなさん、渾身の2ページ漫画は描かれましたか?

まだな人は、このコラムを読んでいただいてもよいのですが、まずは作品を完成させちゃうことをお勧めします。習うより、慣れろ、です。

第一回めにも書きましたが、人間は、口ではいくらでも言えます。「アフタヌーン 四季賞取ります!!」素晴らしいと思いますが、私の経験だと、四季賞を本当に取る人は、そんなのわざわざ人に伝えないで筆を動かします。みなさんがんばってくださいね。

 

①8ページ漫画は奥が深い/これが出来たらプロ!!

 

以前、とても有名な少年漫画の先生にお会いする機会があり、私たちは8ページ漫画を描いているんですとお伝えした機会があったのですが、その時のその先生の第一声は、「君たち、とんでもなく難しいことしてるねぇ」でした。その先生はこれまで何百回の締め切りを経験していますから、物理的に8ページ漫画を描くのが難しいと言っているのではありません。たった8ページの中で、読者を楽しませ、それでいてちゃんとその作家性を出すのが難しいと仰っているのだと理解しました。

 

8ページ漫画の創作経験は、私はとても多いです。というのが、コミティアさんと組んで、中野アートコートで数年間「漫研コミュ」というのをやっていたのですが、そこのコンセプトが、3ヵ月に1本の8ページ漫画を描き、それで合同誌を作ろうというものでした。30名ぐらいの生徒のみなさんが一斉に8ページの企画作りからストーリー作りをするわけです。

 

②8ページは起承転結では作らない方がよい

 

長いこと「漫研コミュ」の生徒さんの8ページ漫画を見ていて感じたのは、たった8ページだと、いわゆる「起承転結」で物語をまとめるよりも、ワンシーンをたっぷり描き、最後にちょっとしたオチを付ける方が良い作品が多かったという点です。

 

これは「漫研コミュ」と離れるのですが、森薫さんの短編集に「昔買った水着」という魁作があります。8ページ漫画を描く方は、ぜひお買い求めください。

 Amazon CAPTCHA

すごいっすよ。物語は、とても色っぽい人妻(顔は見えない)が、タンスの奥から昔買った水着を見つけるところから始まります。で、結局その人妻が水着を着るだけの話なのですが、もうエロい。その辺のエロ本より全然エロくて色気があります。

何故、森薫さんのこの作品がこんなにも素晴らしいのか。それは、説明をする要素を極端に少なくしているからです。

イントロ、色っぽい人妻が昔買った、少し派手な水着をタンスから見つけます。いわゆる5W1Hでいうと、ほとんど何の説明もなく、背景だけでわかるようになっています。そして、物語はストーリー性を帯びないまま進み、その人妻が水着を着るシーンを大ゴマで描いて終わります。

はっきり言って、起承転結はありません。言うならば、起・結です。

ただ、8ページ漫画だとこの方がスペースが取れますし、伝えたい面白さが伝わる確率が上がります。

 

③逆に起承転結をがっつり描くと

 

以前、漫研コミュの生徒さんで、主人公の女剣士が壮絶な敵との戦いに勝ち、王冠を自分の主君である王妃に届けるという8ページ漫画を描いてくれた生徒さんがいました。構成の段階で私も気づけばよかったのですが、8ページでバトルシーンもあり、王宮に戻るシーンもあり、シーンてんこ盛りで結局40ページ漫画のダイジェスト版みたいになってしまいました。これでは、もったいないです。私が出した代案は、戦闘シーンなどは全てカットで、一番描きたい、女剣士がひざまずいて王妃に王冠を渡すシーンだけを描くとどうかというものでした。その前に、壮絶なバトルがあったことは、女剣士の血まみれの恰好や、ぐにゃぐにゃに折れ曲がった剣、場合によっては腰に下げている首などで表現できると思うのです。

 

④短編漫画で長編漫画に対抗するには

 

これを私たちは覚えましょう。短編漫画は、これからページ数を伸ばしてはいきますが、どこまで行っても短編漫画です。「スラムダンク」31巻には物語の分量で言えばかなわないのです。なので、工夫をして、構成などで読者が短いページしか読んでいないのに沢山の情報を得た、「この話の続きが読みたい!」と思わせるのがポイントです。「聲の形」など、いくつかの短編漫画はこれに成功しています。「ワンピース」の第一話だってそうです。作品の奥には、まだ見えていないけれど何かがある。それが知りたい!読者にこう思わせるのが短編漫画の名手です。そのためには、当たり前ですが作者自身がちゃんと短編漫画の奥に、今回のストーリーでは説明できないけれどもきちんとした世界観だったり、ストーリーやキャラクターを持ってなくてはなりません。それは8ページ漫画でも、です。

8ページ漫画の実際の作り方は次回やりますが、まずはこの部分についてみなさんと認識をシェアしておきたいです。

 

⑤あと、とても現実的な問題として8ページ漫画は雑誌に載りやすいです。

現実的な話をすると、私たちが58ページの漫画を描いて編集部に持って行っても、よっぽどのクオリティの作品でない限りは作品が雑誌に載ることはありません。しかし、8ページ漫画ぐらいならば、誌面の間に入れていただくことも可能性が上がります。私たちは、まず8ページ職人になるべきです。それには、繰り返しますが、物語・ストーリーの説明をしないこと。ワンシーン・ワンシチュエーションで起承転結を描くのではなく、起・結をまとめることだと思います。ちょっと気の利いた設定で、結が秀逸だと、それはすぐに面白い8ページ漫画になります。持ち込みをする際にも、8ページ漫画を4本・5本とまとめて持ち込むと、先方も読みやすいかもしれません。

 

⑥まとめ

 

という訳で、おじさんは今日も短編漫画について考えています。そして、考えれば考えるほど8ページ漫画ってよいなぁと思います。みなさん2ページが終わった後は、ぜひ8ページ漫画を描きましょう。

みなさんの健闘を心から祈っています。

 

 

1作目 2ページ漫画を本気で描く その2

こんばんは。みなさんはご機嫌よろしゅう火曜日の夜をお過ごしでしょうか?

私の方は夕方からかなりの爆睡をしまして、ようやく脳みそが動き始めたところです。

 

さて、今日は2ページ漫画作成の続きをやりましょうね。

 

①見せゴマをはっきりさせる

 

前回のブログで、12コマで見せる絵を文章で確定させました。次はそれを原稿用紙にレイアウトしていくのですが、まずは大きく見せるコマを確定させます。

漫画は見開きで構成されますが、プロの原稿でも見開きごとに「見せゴマ」というのが存在します。その見開きを開いた時に、読者の一番最初に目に入るコマのことです。

前回のプロットだと、私的には

6.思い入りカンチョー。

と、

8.よく見るとそれは学年一の不良。

が候補になりますが、優先順位で8ですかね。

これから作る2ページ漫画で、8が一番大きなコマになるようにするためのレイアウトをします。

 

②レイアウトをする/基本は3段フォーマット

「コマ割り」というのは複雑で難しいことのようですが(実際にプロのコマ割りは本当に難しく良く出来ていますが)、基本を押さえれば、とりあえず誰にでもできます。

前回お話したように、現代漫画の基本的なコマ数は2ページで8~12コマです。なので、コマ割りをするときは3段フォーマット、伝わりますかね? 原稿用紙を縦に3分割します。そうすると自動的に2ページで6コマができ、さらに横に2分割、3分割をしていきます。

先ほど、8コマめが大ゴマ、見せゴマになることを決めたので、右ページは7コマがよいでしょう。1ページに7コマはちょっと窮屈な感じもしますが、とにかく8コマめを左ページでドーンと見せたいので、仕方ありません。

3段フォーマットで2個割り、2個割り、3個割りぐらいな感じです。

具体的には、

1.学校校舎。チャイムが鳴る。

2.教室の様子。掃除の時間。

3.主人公、ほうきをギター替わりにふざけて歌を歌っている。

4.主人公アップ(幸せ絶頂)

5.主人公の視線。目の前の友人にカンチョーチャンス!!思い悪魔のような笑顔でカンチョータイミングを狙う。

6.思い入りカンチョー。

7.絶叫の声が友人と違う。

を右ページに収めます。

 

そして左ページの最初を大ゴマにして、

8.よく見るとそれは学年一の不良。

をドーン!!です。

 

9.不良に思い切り睨まれる。

10.血の気が引く主人公。

11.不良に思いきり殴られる主人公。

12.カメラが引いて終わり。

は残りのスペースに埋めていきます。

 

③最初は顔漫画でよいから!!

「顔漫画」とは、すべてがバストアップで正面顔のアングルの漫画を言います。普通はネガティブな意味で使いますが、私は最初の2ページ漫画はとにかく完成することが目的なので、顔漫画で充分だと思います。

それは、井上雄彦みたいなコマ割りをしたいですが、最初は無理です。おそらくですが、井上さんだって、最初は顔漫画だったはずです。

なので、アングル気にしないで上の情報を1コマずつ描いて行きましょう。画力がなくてもかまいません。それも、だんだんついていくものなので。

私はまったく絵心はありませんが、私だって顔漫画ならば描けます。みなさんも必ず描けるはずです。

ここで大事なのは、とにかくコマにメリハリをつけることです。8コマめが大ゴマになるように、それだけを目指して顔漫画を描いてください。

 

④リテイク、1回だけしてみましょうか。

さて、みなさんは顔漫画のネームを描きました。これで原稿を描いてもよいのですが、せっかくなので1度だけリテイクをしてみましょうか。例えば、1の学校校舎。チャイムが鳴る。の部分、果たして現状でよいか。「キーンコーンカーンコーン」というチャイムの音を入れた方がよいのではないか、など、ちょっとだけ工夫してみましょう。こだわりすぎて、筆が止まってしまうのは嫌ですが、気軽な気持ちでなんとなく直してみましょう。きっと、1時間以内に直せます。

 

それが出来たら、漫画原稿用紙に下描き、ペン入れ、トーン貼りなどです。これについては作画編でやりますので、私の説明はここまでにしておきます。

 

⑤代案を入れることだってできるお。

 

さて、前回のコラムで、私は、

 

人間は、思考しやすいところからアイデアが出て来るので、最初に出て来るアイデアはたいていベタです。例えば、勘違い初心者の方にアイデア出しをしてもらうと、ほとんどの場合、男かと思ったら女だった(あるいはその逆)的なアイデアが出てきます。これは、よほど素晴らしいひらめきがないと、「見たことがあるアイデア」になります。

 

と書きました。それはそうなのですが、この原稿だったら、男だと思ったら実は女だったというアイデアは面白いものになりそうです。というのが、例えばですが、主人公が友達だと思ってかんちょーをした相手が学年一可愛い、学校のマドンナだったらどうでしょうか? 男だと思ったら女だった、というアイデアはよくありますが、8の部分でヒロインの可愛い顔を描けます。これは、まずは作画で可愛い女の子を描く練習にもなりますし、可愛い女の子を大ゴマで出すのは読者サービスにもなります。

 

このように、読者にどう見えるかなどを工夫しながら、原稿を常に改良していくのも漫画家にとってはとても大事な事です。

 

⑥まとめ

 

という訳で、今回は2ページ漫画の作り方の後編を書きました。私は以前、小学生ともこのやり方で漫画を描きましたが、小学生たちでも100パーセント2ページ漫画を描けました。大人の我々は、あれこれ考えてしまうのでどうしても筆が遅くなってしまいますが、このように、システマチックにビルドアップをしていくと、私たちはほぼ間違いなく漫画を描くことができます。

 

私は専門学校などで、絵はうまい、話し作りもうまい、キャラクターも良いものが描ける、けれど、原稿がどうしても完成しない生徒たちを沢山見てきました。それは、いきなり良い原稿、井上雄彦みたいな原稿を描こうとするからで、私からすると、つくづくもったいないなぁと感じます。

 

このコラムのコンセプトは、0から、誰がやっても10作描けばプロになる、です。こんな簡単なところからスタートして大丈夫か?と思われるかもしれませんが、長年漫画家志望者を見て来た私からすると大丈夫ですし、逆に、こういう簡単なことをバカにしてやらない生徒はプロになれません。

 

みなさん、ぜひぜひがんばってくださいね。