2作目 8ページ漫画を思いきり描こう!! ③
こんばんは。今日は日曜日です。みなさんは楽しい日曜日の夕べをお過ごしでしょうか?
私の方は、夕方から軽く飲んで、良い感じで酔っぱらいながらこの原稿を書いています。「書くことは 呼吸だだから ただただ 呼吸困難だった」枡野浩一さんの歌ですが、その気持ちがすっごくわかります。昔、若いときは文章をこんなに簡単には書けませんでした。それが書けるようになるのはやはり大人になって色々な経験をしたからでしょう。
私はこのコラムを特に若い人に向けて書いている訳ではないのですが、若い人にはつらくても漫画や小説の制作を頑張ってほしいです。
①すいません。ちょっと間違ってました。
前回、前々回と、私は8ページ漫画を「起・結」と説明していたのですが、それはちょっと間違いでした。正確には、「起承承転結」か、「起承転転結」の5ブロックだと思います。8ページ漫画と言えど、一度は転がさないとだめです。それをどう転がすかは皆さん次第です。順接で転がす時には「起承承転結」になるでしょうし、裏切りや「実は・・・」という方向で転がす時には「起承転転結」です。
では、私たちは8ページで何を見せたらよいのでしょうか。
8ページ漫画とは詰まるところ何か、と言えば、「見せたいコマを見せるためのマンガ」もしくは「見せたいコマを見せるために構成されたプログラム」と言えます。前々回出した森薫さんの「昔の水着」では、人妻が少し大胆な水着を着るシーンを見せるためだけにストーリーは構成されていました。
私たちはこういう見せたいコマを見せるためにイントロからする計算を「逆算」と呼んでいます。みなさんが大好きな荒木飛呂彦さんの短編漫画なども、見せたいコマ、例えば16ページ漫画で15ページ目にくるシーンを見せるためだけに逆算して、イントロからそのコマを見せるためだけの構成をします。無駄ゴマ、無駄セリフは一切ありません。
ちなみに、8ページ、16ページの漫画というのは、本当に無駄ゴマ・無駄ゼリフ・無駄エピソードが入れられないジャンルです。「はなとゆめ」など、大手少女漫画誌が持ち込み原稿をあえて16ページにしばるのは、作者にそういう短いページのストーリーを描かせて、構成力を身に付けたいからだと思います。普通の恋愛物語を普通に描こうとしたら、どうしても32ページは必要なところを、いかにダイエットするか、いかに無駄を省くかを最初のうちに覚え込ませるためです。
②プロットが溶けたアイス型にならないためにすること
私は、初心者の作るプロットの多くを「溶けたアイス型プロット」と呼んでいます。イントロ、一応まとまってはいるのだけれど、既に無駄なエピソード、無駄な会話が入っている。それが中盤①になると、更に無駄が増え、プロットを書いても書いても山場にたどり着かずにプロット事態を放棄する、そんな経験を皆さんはしたいことがありませんか?それは、まるで溶けたアイスのようです。
プロは先ほど言った逆算を使うので、イントロから無駄なものがないので、自分の予定通りに後半に見せたいコマをしっかり見せられる8~16ページの漫画を作ることができます。
何故プロは溶けたアイス型のプロットにならないのか。「経験が豊富で体が構成を覚えている」と言ってしまっては身も蓋もないですが、これは結構本当の話で、私も以前1か月に3本の40ページのプロットを完成させるお仕事を1年間ぐらいいただきましたが、人は月に3本プロットを完成させていると、中盤①の部分まで書いたところで「あ、テンポが悪いな」とか、『もう少しエピソードを足して中盤を分厚くした方がよいな」とか、そういったことを体が覚えました。
なので、みなさんには悪いことは言わないので月に2本はプロットを「終わり」まで書いてほしいのですが、それでも早くに上達するコツはあります。今日はそれを説明しましょう。
③5段落のプロットを箇条書きにする
プロットを溶けたアイス型にしないためにすること、それは、
1.プロットを箇条書きにする。
2.プロットを上から順番に作らない。
これに限ります。
先ほど言ったように、大学ノートにびっちりストーリー順にシナリオのようなものを書くことを否定はしませんが、成功率で言うと、こちらの方がはるかに簡単にプロットが作れます。
短編漫画の物語構成要素の数とページ数は、かなり正確に法則性があります。がっつりエロやバトルシーンが入らない漫画の場合、
8ページ←→5段落
16ページ←→9段落
24ページ←→11段落
32ページ←→13段落
40ページ←→15段落
という感じです。これはかなり多くの漫画で実証されている数字です。なので、私は先ほどの40ページのお仕事をいただいたとき、すべてを15段落で作り、ページ数ぴったりでした。
なので、みんさんはまずこの8ページ漫画を描くにあたり、5段落のプロットを作ればよいのです。
イメージで言うと、
1.2ページ 起(イントロ)
2.2ページ 承(中盤)
3.1ページ 承(中盤)
4.2ページ 転(山場)
5.1ページ 結(後日談)
こんな感じです。裏切りに次ぐ裏切りみたいな構成にしたい場合は、承が1つで転が2つでもよいかもしれません。
このテンプレートでお話を作れば、みなさんは確実に溶けたアイス型のプロットから抜け出せるはずです。
④思いついた順に書いて、最後に数合わせをする。
さて、プロットを箇条書きに書くのと並んで大事なのは、プロットを上から順に書くのではなく、思いついた順、確定しているエピソードから順番に書いて、最後に数合わせをすることです。
だいたい、みなさんはこれから描く作品のイントロはわかっているものです。例えばですが、前回出したアイデアの「ボールペン」で構成をするならば、1段落めは、主人公が家の学習机に向かって尋常じゃないオーラを出しながらボールペンでノートに何かを書いているシーンから始めます。主人公の机の周りには使い切ったボールペンが何十本も転がっていてもよいかもしれません。
で、多くの人はこの後、次のシーンを考えるのですが、溶けたアイス型のプロットにしないためには、次に山場を考えます。このお話ならば主人公が東大に合格するのがゴールなので、東大の二次試験を受けているシーンなどどうでしょうね?例えば、主人公だけはえんぴつじゃなくてボールペンで受験をしていて、試験中にボールペンのインクを使い切ってしまってピンチなんてよいかもしれません。これを4段落辺りに置いておきます。
そして、これが山場のシーンになると、後日談は当然、東大に合格するで、この4.5段落がメインになるように逆算をします。例えばですが、2段落めはクラスで授業中シャカシャカとボールペンでノートに好きな子の名前を書き続ける主人公の絵でもよいかもしれません。すると、すらすらと3段落めが生まれてきます。今までボールペンで勉強に関係ないものを書き続けていた主人公が、勉強をするようになる「きっかけとなる事件」を入れればよいのです。それはヒロインのサジェストかもしれないし、教師の助言かもしれません。
⑤ストーリー化してみます。
まとめますと、
1.ボールペンで文字を書いてインクをめちゃくちゃ消費している主人公。
2.回想:これまでは授業中も放課後もノートに勉強に関係のないもの、好きな子の名前だったり、全国の都道府県の羅列だった利を書いていた主人公。そこにヒロインが来て、何らかのエピソードで主人公に「勉強しなよ」と言う。
3.回想戻り:勉強をするようになった主人公はそれまで学年で最下位だった順位が一番になるほど急激に学力がアップする。東大を受験したい何らかの動機(ヒロインがらみかな)。
4.東大試験。途中ボールペンのインクが切れるアクシデントなどがありつつも、無事試験を終える。
5.見事東大に合格。ヒロインがらみの目的を達成する。
という具合いに作っていくと、あら不思議、すごく簡単に構成が出来ます。もちろん、このあと、主人公が何故そんなにボールペンで文字を書くのが好きなのか、何故ヒロインが主人公に勉強を勧めたのか、何故東大を受験しようと思うのかなどを考えていかなければなりませんが、とりあえずの構成、溶けたアイス型ではない構成はこれで出来ました。
⑥まとめ
そんなわけでまとめです。最後の部分、主人公の動機の掘り下げなどはこれからやらなければならないことですが、こうやってプロットを組むと、上から順番にプロットを組んでいくよりも驚くほど簡単にプロットが作れます。
このコツをみなさんにも覚えてもらい、私はみなさんに最低月2本のプロットを書いてほしいです。先ほども言ったように、この理論に従ってハードトレーニングをして、まずは体で覚えないといけないこともありますから。
それでは。