3作目 16ページ漫画を落ち着いて描こう ①
こんばんは。夜もすっかり更けてきて参りまして、みなさんは楽しい夜更けをお過ごしでしょうか?
私の方は髪の毛の変色を試み、思ったほど金色にならなかったのでまた明日やろうかどうしようか悩んでいる夜更けです。
さて、このコラムも昨日で2作目が終わりまして。みなさんは8ページ漫画が描けたでしょうか?まだの人は、このコラムを読む前にぜひ描いて完成させてくださいね。
「耳年増」という言葉があるように、人間は耳でだけ色々な経験者の情報を聴いていると自分もなんだかその体験をしたかのような気持ちになり、本来レベル1なところがレベル10ぐらいの難易度のことをいきなりやろうとして失敗→挫折というのを、私はこれまで何度も何度も何度も見てきました。
人と話すなと言っているのではありません。人と話すことで、人間の脳みそは活性化されますし、話していながら改めて自分のやりたかったことがはっきりすることだってあります。
ただ、話しすぎると耳年増になりますし、口から情熱がこぼれてしまいます。居酒屋で100時間漫画論を熱く語るよりも、家で1時間ペンを握っている方が有意義です。
①さあ、3作目は16ページ漫画です。
さあ、そんなわけで、みなさんが2ページ・8ページ漫画が完成したという前提で、3作目の16ページ漫画に入りたいと思います。
16ページ漫画。これも独特の難しさがありまして。
まず、16ページで濃いい人間ドラマを描くのは、よっぽど工夫をしないと無理です。ページ数が足りません。「感情移入」という言葉があり、24ページ漫画以降になるととてもとても大切な概念になるのですが、16ページ漫画で読者を感情移入させるのは無理です。
これは、私たちが日常生活で体験していることを例に取ればわかると思うのですが。16ページ漫画を読むのに読者が使う時間はせいぜい5分です。私たちが日常生活で出会って5分の人に感情移入が出来ないように、たった16ページ5分のドラマをどれだけ一生懸命作っても、ほとんどの場合は感情移入していただく前にページが終わってしまいます。
なので、まずは感情移入の練習をせずに16ページを描き切る練習をしましょうね。
②物語内時間や空間を限定すると描きやすい
これは8ページ漫画にも言えるのですが、短編の中でも超短編である8~16ペーの漫画は、物語が起こる時間や場所を限定してあげると作りやすくなります。
例えば、高校の昼休みに起こる出来事。例えば、女子更衣室で起こるハプニング。と言いった具合に。萩尾望都さんの魁作「ポーの一族」の第一話では、16ページ漫画で40年ぐらいの歴史を描いていますが、ああいう飛び道具を使わずにスタンダードな16ページ漫画を作るならば、1時間とか、1日とかまず時間を限定してしまえばグッと作りやすくなります。
例えばですが、主人公がどこかに閉じ込められていて、残りの空気が1時間分しかない、といった具合いです。
先ほどの女子更衣室と組み合わせると、何かの事情で女子更衣室に入った主人公男子が、女子たちが来たもので慌ててロッカーの中に隠れたのだけれど、閉所恐怖症でロッカーの中にいられる限界が10分。みたいにすると、感情移入に寄らないストーリーが出来ます。
③もっとも16ページで起承転結をやってもよいのですが。
もっとも、特に少女漫画組の方々は、16ページでもしっかりと起承転結にまとまったお話を作らなければならないかもしれません。要は、構成力を身に付けたいのですが、白泉社コミックスの「はなとゆめ」は、持ち込み原稿を16ページに制限しています。これは1つの見識で、だらだらと長いものを描くんじゃなくて、ちゃんと起承転結をしたドラマを構成しなさいという宿題をみなさんに出しているのです。
さて、では私たちはその宿題に沿ってラブストーリーを起承転結で描こうとするのですが。やってみた事がある方はすぐにわかると思いますが、男女が出会い、お互いを好ましく思い、距離が縮まり、しかしすれ違いが起こり、けど仲直りをして、お互いの気持ちを確かめ合うという恋愛フルコースをやろうとすると、どうやっても16ページでは足りません。逆に、どれもが中途半端なダイジェスト漫画のようになってしまいます。
余談ですが、覚えておいてほしいのは、こういうボーイミーツガールのお話をショートカットなしで描こうとすると、だいたい60~70ページが必要です。なので、中編漫画以降となります。
④大事なところから始めちゃう
実は、同じことを8ページ漫画でも言ったのですが、恋愛ものを描くのに、出会いから描いていてはとてもページが足りない。ではどうするかというと、もうヒロインがヒーローと出会ってだいぶん時間が経っていて、好きで好きでたまらず告白せざるを得ない状況になっているところからドラマを始めたらよいのです。
8ページ漫画では、ファンタジー世界で敵との血みどろの戦いを終えた女剣士が王女に王冠をプレゼントするという漫画の話をしました。あの時にも、血みどろの戦いはあえて描かずに、それを演出する話をしました。
16ページの場合、8ページよりはページに余裕があるので、1回か2回の回想を入れることができます。大体の場合、そのうちの1個は2人が出会った場面です。2人が出会った場面から描くとページ数が足りなくなりますが、2人が出会ったシーンを2ページぐらいの回想で入れると、ページを喰わずに2人にとってとても重要な出会いのシーンを読者に示すことができます。
同じように、主人公やヒーローの感情が動いたエピソードは、回想という形を取り、手短に読者に見せるようにしましょう。キャラクターの感情が動くシーンはとても大切なので、それをみせる必要はあります。
と、こうやってあれこれと言ってますが、これが要は「構成」なのです。「はなとゆめ」の編集者の方々は、10代のはなゆめ持ち込み女子に、こういう工夫をしてほしがっているとご理解ください。
⑤貯めて貯めたスペースは一気にドンと使おう
さて、16ページ漫画の神髄です。荒木飛呂彦先生の短編漫画などを読んでいると本当にこの通りなのですが、私たちが何故ちょっとずつコマを節約しているかというと、自分の見せたい絵・見せたいコマに惜しげもなく分量を割くためです。
読者が16ページ漫画でみたいのは、ちまちましたコマの漫画ではなく、そうやってちまちました先にある「どーん!」という会心のコマが欲しいからなのです。
このコマに関しては、ぜひ遠慮せず、長編漫画と同じぐらいの大きさと濃度・密度で自分が読者に見せたいアイデアだったりコマだったり面白いと思ったことを見せるとよいと思います。そうすることで、読者は「お、この新人面白いな」とか編集者は「この子はちゃんと育てたらもしかしたら伸びるかもしれないぞ」といった気持ちになるのです。
ちなみに先ほどの荒木先生の場合は、16ページ中に描きたいコマが14・15ページの見開きにあり、それを見せるためだけの漫画を描くので、イントロからラストまで無駄ゴマが1つもないような漫画が生まれます。
⑥まとめ
はい。と言う訳で、今日は16ページ漫画の概略というか入口についてお話しました。16ページ漫画って、8ページに比べると更に難しいページ数です。
明日からも勉強をして、16ページで担当者が付くような、受賞が出来るような漫画を作りましょうね!
おやすみなさん。