ガチ漫画初心者が、10作描いてマンガでデビューするための方法(リアル)

14年間漫画家志望者と一緒に短編漫画を作り続けてきた私が本気を見せます。なんて。見てね♡

3作目 16ページ漫画を落ち着いて描こう ②

こんばんは。田中裕久です。今日は金曜日。一日中外を出歩いていたのでちょっと疲れました。このコラムを書き切れるかなぁ。

 

さてさて、16ページ漫画の作り方の続きです。前回は、16ページは短いので、思い切って感情移入に寄らないマンガを作るか、起承転結はっきりしているけれど、構成を考えてだらだらしないマンガを作ろうとお話しました。

今日はその続きです。

 

①「出落ち」って言葉を知っていますか?

みなさんは出落ちって言葉を知っていますか? 舞台などで、出て来たインパクトが一番強くて、登場シーンがオチになってしまうことを言います。漫画でも、イントロのページ、めくりでドーンの見開きが一番面白く、その後は予定調和で驚きが無いマンガを言います。

以前、いるかMBAの生徒さんでビジュアルは古代ローマ人なのだけれど、現代のバリバリの女子高生の生活を描いた方がいました。とっても面白いアイデアで、私も素晴らしいと思い、きっと賞を取るか、上手く行くと掲載まで行くかなぁと思っていました。ページ数は16ページです。

持ち込みの結果を聴くと、イントロについてはこちらの作戦通り笑ってみてくれていたそうですが、後半になると厳し顔になり、「このマンガ、出落ちですね」と何誌かの編集部で言われました。賞は取れませんでした。

これは、その作者の方と私が、「古代ローマ人のビジュアルの女子高生」というアイデアに安心してしまい、後半に予想外なアイデアや、「うまい!」と膝を叩きたくなるような伏線の回収を作る努力を怠ったためです。

 

②編集者は常に先読みをしている、その予測を越えよう

 

編集者は自らをプロの読み手と考えています。そういうプライドが必ずあります。なので、彼らはみなさんの作品を読むときに、常に先の展開を予想しながらページをめくっています。で、予想通りの展開だと、「なんだよ。こんなオチ1ページめからわかってわ」とか、「なんかなー。何でこんな古臭いドラマ作ってるかなぁ。これだったら大御所の先生の方が新しいストーリーラインだよな」とか、そんなことを心の中でつぶやいています。私はあまり先読みはしないで読む方ですが、それでも14年も漫画家志望者の原稿を見続けていると、先の展開はだいたい予想が出来ます。

しかし実は、みなさんが付け入る隙はこの編集者たちの慢心とも言うべき我々に対する期待値の低さなのです。

彼らは読み手のプロですから、自分の予想が良い意味で裏切られる、「これぐらいだろ」と思っていたら予想を超える面白い展開やオチがやってくると、一般の読者の何杯も驚くし、喜んでくれます。

みなさんの作る漫画が秀逸であれば、彼らはプライドを捨ててみなさんを歓迎することだと思います。

 

③2段ロケット・3段ロケット

私は以前、短編漫画は企画を含めて3つの面白い要素がないとだめだと書いたことがありますが、先ほどの古代ローマの女子高生は、企画は面白いけれど、その後に面白さがない、予想通りの展開で、面白さが1つしかない作品だったので評価されませんでした。企画は面白いのですから、中盤のネタ振り、山場での回収、予想を裏切るオチが付くと、きっと面白さが3つある作品になり、その生徒さんは画力はあったので、もしかしたら掲載までを狙えたのかなぁと思います。

本当にもったいないことをしたなぁと感じました。私たちは面白い企画を思いついた時こそ、中盤、山場で2段ロケット、3段ロケットを矢継ぎ早に打ち出し、最後に全部を回収して終わるストロングスタイルを取るべきです。そういう意味で、荒木飛呂彦先生の短編漫画は、本当によい教科書になります。

 

④私たち新人に求められていること

編集者の方々が先読みをしている話が出た次いでに、編集者の方々が我々漫画家志望者もしくは新人マンガ家に何を求めているかをお伝えしましょう。それは、思い切りの良さと「新しい才能」です。何人かの編集者の方から直接聴いたので間違いありませんが、編集者の方が持ち込み原稿を見ていて一番萎えるのは、「オール3」の原稿、企画・構成・キャラクター・演出・画力・セリフ回し・モノローグなどなど、色々なトピックスについて、5点満点中オール3点の原稿だそうです。

ある編集の方は、「それだったら本当に原稿が仕上がるかわからない新人を使うより、中堅の手堅いマンガ家さんに仕事を任せた方が安全だ」と言っていました。本当にその通りだと思います。

我々に求められるのは、言ってしまえばキャラクター、キャラクター力が、5点満点中、6点の原稿です。構成はひどい。見れたものではない。画力もまだまだ。けど、このキャラクター性、キャラクターのセリフ回し、見たことない。めちゃくちゃ新鮮かつ売れる予感がする。これです。

 

⑤感情移入させないでよいのは実は武器になる

漫画に限らず、エンターテイメント作品、純文学作品で最も大事な概念は主人公への感情移入です。我々がオリンピックでブルガリアの選手を応援しないように、読者は自分が感情を移入したキャラクターの喜怒哀楽、奇想天外なストーリーには手に汗を握りますが、そうではないキャラクターに対してはそんなに強い感情を持ちません。

なので、24ページ以降の王道短編漫画は、読者に感情移入してもらう工夫をいたるところでしなければならないのですが、16ページ漫画は、端から感情移入をしてもらわないつもりだったら、たくらみ発動で面白い企画、面白いシチュエーションからドラマをはじめ、読者が驚いているうちに中盤・山場を駆け抜けて、あっけに取られている間にエンディングで店じまい、なんて方法も取れます。これは、ぜひチャレンジしてみて欲しいです。

先ほどのローマ人の女子高生に関して言えば、普通の漫画のセオリーだと、それでもそのローマ人の女子高生に感情移入してもらいたい訳ですが、感情移入してもらう必要がないので、「稲中卓球部」の前野と井沢よろしく、ハチャメチャな展開で物語をぶっちぎる面白さも可能です。

 

⑥まとめ・備忘録

さて、そんなわけで、出落ちはしないでね、と、読者の予想の斜め上を行く面白さを目指そうねという話をしました。明日は、それに引き続き、「濃いい原稿を描こう」というお話をするつもりです。

あー、寝るかと思ったけど寝ないで最後までかけた。ご清聴ありがとうございました。