ガチ漫画初心者が、10作描いてマンガでデビューするための方法(リアル)

14年間漫画家志望者と一緒に短編漫画を作り続けてきた私が本気を見せます。なんて。見てね♡

4作目 24ページ漫画を丁寧に描こう①

こんにちは! 田中裕久です。みなさんはここ地球で楽しい人間生活を謳歌しているでしょうか?私の方は今日は久しぶりに高校に漫画を教えに行く日だったので早起きしすぎてねむねむの午後です。

さて、今日からいよいよ4作目に入ります。みなさんは2ページ漫画・8ページ漫画・16ページ漫画が描けたという前提でお話を進めますね。

 

①感情移入という概念

 

感情移入という言葉は聴いたことがあると思います。ある対象物、多くは人間ですが、それに感情が移入してしまう、シンクロしてしまい、その人物がうれしい思いをするとこちらもうれしくなり、その人物が悲しい思いをするとこちらも悲しくなる、という人間の生理的感情の変化を言います。

実は、私たちの生活には感情移入が溢れています。例えば、サッカー日本代表の試合。多くの人は、W杯になると日本を応援し、日本の本田などがゴールを決めるとガッツポーズをして喜ぶし、逆に敵にゴールを決められると放心するほどのショックを受けます。何故でしょうか? 私はもちろんサッカー日本代表選手じゃありませんし、本田と家族でも友達でもありません。なのに、同じ日本に住む日本人がゴールを決めると、うれしい。これが感情移入です。

これは、リアル世界だけの現象ではなくて、フィクションの創作世界でも同じことが言えます。私が大好きなエピソードは、昔、高倉健さんが主演の任侠ヤクザ映画を観て映画館を出た男性は、みんながに股のヤクザ歩きになっていたというものです。もちろん、観客はそれぞれに色々な職業を持っています。しかし、稀代の名優高倉健が2時間のプログラムでドラマを見せると、公務員だろうが会社員だろうが工場長だろうが、職業関係なくつい高倉健さんに感情移入して同じ行動を取ってしまう。これが感情移入です。

 

②24ページ漫画で感情移入の概念を学ぼう

私たちはこれまで2ページ漫画・8ページ漫画・16ページ漫画を描いてきました。これらは、ページが短いだけに感情移入という概念がそんなに重要じゃありませんでした。しかし、ここからは感情移入がエンターテイメント作品にとって最も大事な概念になります。

スラムダンク」のみっちーを思い出してください。何故我々はみっちーが「オレ、バスケがしたいです」というセリフで感動するのか。それは、井上雄彦さんが組むプログラムの中で、我々は知らず知らずのうちにみっちーが元天才バスケットプレーヤーだったこと、しかしグレてしまってバスケットから遠ざかっていたことなどを知っています。なので、まるで肉親や友だちのような目でみっちーを見ますし、そんなみっちーが涙をこぼしながらもう一度バスケがしたいというセリフを言う時に思わずウルウルしてしまうのです。今、このシーンを見直そうとNAVERのまとめを見ていたら、どんぴしゃりのコメントが載っていたので転載します。

 

作者の井上雄彦によると、当初は三井をただの不良役で終わらせる予定であったが、体育館での喧嘩のシーンが予想外に長引き、その間に三井に感情移入したため、急遽予定を変更して湘北メンバーに加えることになったという

 

これですよ。まさに。これがなければ、あの有名な「あきらめたらそこで試合終了だよ」という安西先生の名ゼリフも生まれて来なかったわけです。

 

逆に、もしも私たちが漫画やアニメを見ていて、「ケッ。つまらない展開だなぁ。この作品の何が面白いんだろう?」みたいなことを思っていたとして、先ほどのみっちーのような素晴らしいシーンが出て来たらどうでしょう? きっとみなさんは、「まあ、このシーンはちょっとはよいけど、次巻は買わないな」という判断を下すのではないでしょうか? 何故ならば、みなさんはその作品に感情移入していないからです。

 

という訳で、漫画やアニメ、テレビドラマなどで感情移入がどれだけ大事な概念かご理解いただけたでしょうか?

 

③それを短編でやる

感情移入という概念を考えた時、長編漫画と短編漫画だと、長編漫画の方が圧倒的に有利です。何故ならば、読者がその物語に滞在する時間が圧倒的に違うからです。今日は徹底的に「スラムダンク」を例に出しますが、「スラムダンク」31巻を全て読むのには、どんなに早くても30時間ぐらいはかかるでしょう。読者は「スラムダンク」に30時間滞在するのです。一方、私たちがこれから描こうとしている24ページ漫画は、早い人で5分。じっくり読んでくれる人でも10分ぐらいで終わってしまいます。

私たちが家族や長く付き合った恋人に感情移入をするように、人間は長い時間、時を共にした方がより深い感情移入をしますから、短編漫画は長編漫画に比べて圧倒的に不利なのです。

ならば、短編漫画で読者に感情移入をしてもらうのは無理かというとそうではありません。私は実際に多くの良く出来た24ページ漫画を読んだことがありますし、短い時間でも読者にちょっと寛恕移入してもらう方法はいくつかあります。ただし、「スラムダンク」のみっちーと安西先生のくだりのようながっつりディープで思わず泣いちゃうようなのは、残念ながら無理です。それは、みなさんがプロの漫画家になり、長編がかけるようになってからしてください。

 

④ 24ページ漫画で出来る感情移入の方法/あるあるネタで読者に共感してもらう

短編漫画で読者に感情移入してもらうことは、リアルな人間関係を考えるとわかりやすいです。私たちは鳥山明さんでも羽海野チカさんでもないので、読者とは初対面です。リアル社会において、初対面、それも10分間ぐらいしか対面しない場合、いきなり仲良くなるのはとても難しいですよね。けれど、時々、気の合う人とか、あ、この人は素敵な人だなと短時間で思わせる人がいます。私たちは3次元でそれをやる必要はありませんが、2次元の原稿用紙を使って、読者にそれをやらなければなりません。

人と人が短時間で一番仲良くなりやすいのは、お互いの趣味が合うことです。そういう意味で「あるあるネタ」を上手に使って、読者に「ね、こういうことありますよね」と話しかけるのはとても大事なことです。そこで読者が「お、この作者わかってるなぁ」とか、「この作者の感覚、自分に似ているなぁ」と思ってもらえればしめたものです。「アメトーーク」という番組がありますが、「博多芸人」や「学生の時イケてなかった芸人」のように、ニッチなネタの時ほど「博多あるある」や「学生の時イケてなったあるある」のようなあるあるネタをやり、観客と視聴者に「あー、あるある」と笑わせながらシンクロしていきます。

私たちも原稿用紙を使って、読者に共感してもらう。「この作者わかってるなぁ」と思ってもらうことはとても大事です。

 

⑤自分節を炸裂させる/3点平均の原稿はいらない

自分節については追々お話していきますが、これもリアル世界で、「あ、この人魅力的だなぁ」と思う時に、その人の独特のオーラを感じることってありませんか? 私は野生爆弾の川島がとても好きですが、あの人などは「自分節」があり、他のお笑い芸人とは違った形で自分を表現しています。そして少なくとも私は彼のオリジナリティが好きなので、「魅力的な人だ」と感じます。みなさんも、みなさんのキャラクターやエピソードや背景・小物・世界観などで、それをやってほしいのです。そして実は、編集者がみなさんに求めていることは、まさにこれなのです。何人かの編集者の方は以下のように言います。「新人に求めているものは新しさやびっくりするぐらいのオリジナリティで、どこかでそういうものがある新人は欲しい。逆に、どこを取っても5円満点中3点ぐらいの原稿はいらない」と。編集者さんからすると、プロ経験がない新人に3点平均ぐらいの原稿を作ってもらうならば、プロとして経験があり、そんなに大化けしないけれども間違いのない原稿を作る漫画家さんに仕事をお願いした方が安心だし、安全なのです。

オリジナリティに溢れること、自分のストロングポイントで読者を魅了することは、大変大変難しいことです。しかし、これがないと、24ページぐらいの漫画で感情移入してもらうことは不可能なのです。

 

⑥まとめ

はい。と言う訳で、今回は感情移入の概念と、それを短いページでするには強烈な個性が必要だという話をしました。そして、それこそが編集さんが求めていることであることもお伝えしました。では、具体的にどうするかは、このコラムがだいぶん進んでからお話することにします。それでは、みなさんも原稿がんばってください。みなさんの活躍を心から期待しています。